税理士・米国公認会計士 林 正和(Tax Accountant・USCPA Washington Masakazu Hayashi)

「税理士試験」と「USCPA試験(米国公認会計士)」の比較とダブルライセンスについて

comparison of tax accountant and uscpa

私は2018年に税理士試験に合格し、2023年にUSCPA(米国公認会計士、ワシントン州)試験に合格しました。合格者の視点からこの2つの試験を比較し、さらにダブルライセンスのメリット・デメリットを解説します。

Contents

試験について

税理士試験

税理士試験は、税理士の資格を取得するための日本の国家試験であり、個人や法人の税務に関する法律の知識を評価するためのものです。一般的に、税理士は税務申告書の作成、税務相談、税務計画など、税務関連の業務を専門とします。

USCPA試験

USCPA試験は、USCPAの資格を取得するためのアメリカの国家試験です。USCPA資格は、米国や日本およびその他の国々で会計業務に携わる人々にとって、高い認知度と価値があります。

合格科目

税理士試験

次の科目に合格しました。

・簿記論
・財務諸表論
・法人税法
・所得税法
・相続税法

税理士試験は、いわゆる試験組の場合は、会計2科目、税法3科目を合格する必要があります。税理士試験合格者以外にも、試験免除者 ・弁護士・公認会計士も税理士の登録をすることができます。

まず、会計学に属する科目である「簿記論」「財務諸表論」の2科目が必修となっています。
この2科目に加え、税法に属する科目である「法人税法」「所得税法」「相続税法」「消費税法」「酒税法」「国税徴収法」「住民税」「事業税」「固定資産税」のうち、受験者が選択する3科目が必要です。
(法人税法又は所得税法のいずれか1科目は必ず選択が必要)

USCPA試験

次の科目に合格しました。

・FAR(Financial Accounting and Reporting:財務会計)
・BEC(Business Environment and Concepts:ビジネス環境及び諸概念)(※1)
・AUD(Auditing and Attestatiion:監査及び証明業務)
・REG(Regulation:税法及び商法)

(※1)2024年1月からBECがなくなり、その代わりに次の3科目から1科目を選択する方式に変わりました。
・BAR(Business Analysis and Reporting:ビジネス分析及び報告)
・ISC(Information System and Controls:情報システム及び統制)
・TCP(Tax Compliance and Planning:税法遵守及び税務計画)

USCPAは、私が合格した2023年12月までは、選択科目という概念はなく「FAR、BEC、AUD、REG」の4科目に合格する必要がありました。2024年1月からは上記に記載したように、選択科目という概念が採用されています。選択科目では、より深い専門的な内容を理解しているかが問われます。

試験の難易度

試験の質が違うので一概にどちらが難しいとは言えません。ただし、私が合格までにかかった時間で比較すると、税理士試験5科目合格のほうが難しいといえます。合格までにかかった年数は次のとおりです。

税理士試験

・税理士試験:11年

税理士事務所で働きながら受験していました。合格までに11年かかっているのは相当長く感じるかもしれませんが、以前、税理士試験の平均合格年数は8.6年と聞いたことがあります。

合格までたどり着けずに途中であきらめてしまう人が非常に多い試験です。税理士試験合格への道のりは険しく、受験時代は人生をかけて試験に取り組んでいました。

USCPA

・USCPA:1年6か月

税理士として独立後、働きながら受験していました。1年6か月はおおよそ平均的な受験期間だと思います。税理士試験に合格済みで、それなりに英語の知識もあってこのくらいかかりました。

会計や英語の知識に自信があり、かつ勉強時間が取れれば、より短期間で合格することも可能です。逆に会計や英語の知識があまりなく、勉強時間があまり取れない場合は、もう少し時間がかかると思います。

科目ごとの受験期間

税理士試験

税理士事務所で働き始めたのと同時に、TACで受験勉強を開始しました。このとき、経理や税理士事務所の業務は未経験でしたが、簿記2級に合格していました。簿記論、財務諸表論の合格に3年かかり、残りの8年で法人税法、所得税法、相続税法に合格しています。資格の学校はTAC以外にもありますが、次の点でTACを選びました。

・TACからの税理士試験の合格者が多かった
・社会人の生徒が比較的多い

USCPA

税理士として独立した数年後に、アビタスで受験勉強を開始しました。合格にかかった期間は1年6か月と、税理士試験と比較して短期間で合格しています。短期間で合格できた理由として、オーストラリアで会計学を2年間学んだ経験があったことや、既に税理士試験に合格していたことが挙げられます。英語はTOEIC930点を取得していました。各科目に要した期間は次の通りです。

科目受験期間SCORE
FAR(Financial Accounting and Reporting:財務会計)6か月87
BEC(Business Environment and Concepts:ビジネス環境及び諸概念)3か月79
AUD(Auditing and Attestatiion:監査及び証明業務)6か月81
REG(Regulation:税法及び商法)3か月91

FAR→BEC→AUD→REGの順で受験しました。
税理士なのでREGで高得点が取れて良かったです。

学校を選ぶ際は、税理士試験でお世話になったTACが第一候補となりました。ただ、他の学校も調べてみたところアビタスの合格者が一番多いと見て、アビタスにしました。結果、スムーズに合格できました。もちろん、TACのUSCPA講座から合格している方も多数います。

科目合格の有効期限

税理士試験

税理士試験は、合格した科目については生涯有効となります。この点、1科目ずつ合格を積み上げていけるので、働きながらでも合格を目指せる仕組みになっています。その反面、期限がないため仕事や家庭が忙しいと、受験勉強が後回しになってしまい、受験が長期化する一因となっています。

USCPA

合格した科目には有効期限があります。私が受験していた時は、合格した科目の有効期限は1年6か月でした。つまり、最初の科目に合格した日から、1年6か月以内に残りの3科目に合格する必要がありました。

この点は、USCPA試験のほうが厳しいと言えるでしょう。実際に期限内に4科目合格することができず、最初に合格した科目が失効してしまい、あきらめる方もいます。しかし期限があることにより、短期間に集中して勉強する動機付けにもなっています。

試験の特色

税理士試験

① 合格率が低い
令和5年度の科目別の合格率は11.6%~28.1%
特に、税法科目は合格率が低い傾向にあります
② 1年に1度しか受験できない
不合格となった場合は、次の受験まで1年間待たなければいけません
③ 税法科目では、条文を短くまとめた理論集を丸暗記する必要がある
この暗記に膨大な時間がかかります
外出するときも常に理論集を持ち歩いて、隙間時間に暗記をしていました
④ 一般的な紙での筆記試験
理論問題は、文章で解答する必要があります
⑤ 働きながらの長期間の受験となる場合がある
「受験」と「仕事・家庭」の両立が難しくて受験を撤退する方も多いです

USCPA試験

① 科目ごとの合格率は税理士試験と比べて高い
受験者全体の科目ごとの合格率は50%前後
(英語を母国語としない日本人の合格率はこれより下がります)
② 年に何度か受験できる
不合格となっても、税理士試験のように1年待つ必要がありません
③ 選択問題、または金額、数字を入力して解答し、記述問題の出題は少ない
(2023年12月までは記述問題が出題されましたが、2024年1月から廃止されました)
税理士試験のような丸暗記は必要ありません
④ 試験会場に設置されたパソコンでの試験
パソコンの画面上に問題が出題され、解答していきます(CBT: Computer-Based Test)
問題は、もちろんすべて英語です
⑤ 短期間で合格できる可能性がある
税理士試験より短期間で合格できる可能性があります

税理士試験とUSCPA試験の共通点

最初に税理士試験に合格し、次にUSCPA試験に合格しました。税理士試験とUSCPA試験で、次の科目間で同じ論点があったり、考え方が似ているところがあり学習を進めやすかったです。これに対して、AUD(Auditing and Attestatiion:監査及び証明業務)は、税理士試験では全く出題されない科目であるため、USCPA試験で一番苦労しました。

税理士試験USCPA
「簿記論」「財務諸表論」FAR(Financial Accounting and Reporting:財務会計)
「法人税法」「所得税法」「相続税法」REG(Regulation:税法及び商法)

合格後

税理士試験合格後

それまでの税理士事務所や税理士法人で勤務を続けるか、独立するかのいずれかが大部分だと感じます。一般企業の社内税理士という道もありますが、私の周りでは、合格後、社内税理士になった方を知りません。私は税理士試験合格後、独立の道を選択しました。

USCPA試験合格後

それまでの仕事を辞め、監査法人に転職する方もいます。

どちらの資格がいいか

判断のポイントは、次の2点になると思います。

合格までたどり着けるか

受験を始めても合格までたどり着けなければ、それまでの時間と費用が無駄になってしまいます。

税理士

税理士試験5科目を合格するには、通常、かなり時間がかかります。「受験に専念できる期間があるのか」「勉強と仕事の両立ができるか」「家族の理解は得られるか」などを検討する必要があります。

USCPA

税理士試験と比べれば、短期間で合格できる可能性があります。仕事や家庭の事情で長期間の受験ができない場合は、USCPAのほうが合格を目指しやすいかもしれません。

どういった仕事をやりたいか

税理士

税理士は、税務相談や税務申告書の作成、税務計画など、主に税務関連の業務に従事します。そのため、税務をやりたいなら税理士がいいでしょう。また、税理士には独占業務があり、税理士資格があれば独立もできます。この独立できるのが、税理士の一番のメリットだと考えています。

USCPA

USCPAは、財務会計、監査、税務、管理会計など、幅広い会計関連の業務に従事することができます。また、監査法人や外資系企業、海外での勤務を考えている方は、USCPAになれば、英語と会計知識のアピールができます。私は国内で税理士として独立していますが、顧問先の決算書を英訳するなどUSCPAの資格を活用できています。

税理士試験とUSCPA試験の比較のまとめ

税理士試験USCPA
試験について税理士の資格を取得するための日本の国家試験USCPAの資格を取得するためのアメリカの国家試験
合格科目・簿記論
・財務諸表論
・法人税法
・所得税法
・相続税法
FAR(Financial Accounting and Reporting:財務会計)
BEC(Business Environment and Concepts:ビジネス環境及び諸概念)
AUD(Auditing and Attestatiion:監査及び証明業務)
REG(Regulation:税法及び商法)
合格までにかかった期間11年1年6か月
科目ごとの受験期間・簿記論+財務諸表論:3年間
・法人税法+所得税法+相続税法:8年間
・FAR:6か月
・BEC:3か月
・AUD:6か月
・REG:3か月
科目ごとの有効期限なし(生涯有効)1年6か月(2023年12月時点)
試験の特色① 特に税法の合格率が低い① 合格率は税理士試験と比べて高い
② 1年に1度しか受験できない② 年に何度か受験できる
③ 税法科目では、条文を短くまとめた理論集を丸暗記する必要がある③ 選択問題、または金額、数字を入力して解答し、記述問題は少ない(2023年12月までは記述問題が出題されたが、2024年1月から廃止された)
④ 筆記試験で、理論問題は文章で解答する必要あり④ 試験会場に設置されたパソコンでの英語の試験
⑤ 働きながらの長期間の受験となる場合がある⑤ 税理士試験より短期間で合格できる可能性がある
共通する論点や考え方がある科目「簿記論」「財務諸表論」FAR
「法人税法」「所得税法」「相続税法」
REG
合格後税理士事務所や税理士法人で勤務を続けるか、独立する人が多い(社内税理士という道もあり)それまでの仕事を辞め、監査法人に転職する人もいる
合格までたどり着けるか税理士試験5科目を合格するには、通常、かなり時間がかかる税理士試験と比べれば、短期間で合格できる可能性がある
どういった仕事をやりたいか主に税務
独立も可能
監査法人や外資系企業、海外での勤務

ダブルライセンス

ダブルライセンスを目指したきっかけ

学生の頃から英語が好きで、オーストラリアで会計学を2年間学んだことがあります。そのため税理士試験の受験中に、合格したら次はUSCPAを受けてみたいという漠然とした気持ちがその頃からありました。

しかし、税理士試験に合格するまでに11年かかったこともあり、合格した当時は、資格の勉強は税理士試験でもう終わりにしようという気持ちになっていました。

合格後、少ししてから税理士として独立しました。独立した後に、先輩の税理士から英語ができるならそれを武器に顧問先を増やすのがいいと助言を頂きました。それなら、USCPAを取得し、英語で税務・会計ができることの証明としようと考えたのがダブルライセンスを目指したきっかけです。

ダブルライセンスのメリット

幅広い専門知識

税理士資格は主に税務に焦点を当てていますが、USCPA資格は財務会計、監査、管理会計なども対象となっています。税理士とUSCPAの両方の資格を持つことで、これらの専門知識に加えて英語のスキルも証明できます。これにより、顧問先や取引先のさまざまなニーズに包括的に対応でき、信頼を得ることができます。

国際的に活躍できる

USCPAは国際的に認知されており、米国の会計基準に精通しています。税理士とUSCPAの両方の資格を持つことで、国内だけでなく国際的にも活躍できます。

希少性

「税理士」と「USCPA」のどちらか1つの資格だけを保有している人は多いですが、両方を保有している人はかなり少ないです。ネットで検索をしても、あまり表示されません。

仕事を受注しやすい

例えば税理士として開業し、税務と英語の両方が必要となる仕事があった場合、その仕事を受注できる可能性が高まります。このような仕事は多くはありませんが、それ以上に税務と英語の両方ができる人は少ないと感じています。

好きなことを仕事に活かせる

USCPAを目指す人は、もともと英語が好きな人が多いのではないでしょうか。好きなことを仕事に活かせます。USCPAを取得すれば英語を活かせる仕事が増えて、仕事に対するやりがいを感じることができます。

ダブルライセンスのデメリット

時間と労力の負担

両方の資格を取得するには多大な時間と労力が必要です。税理士試験5科目に合格するだけでもかなりの時間がかかります。ここから更にUSCPAも取得するには、自分の努力に加えて、家族など周りの理解が欠かせません。

経済的負担

両方の資格試験に合格するためにはそれなりに費用がかかります。学校の授業料、参考書、受験料などの費用がかかり、経済的な負担が大きい場合があります。

税理士試験

11年間の学校の授業料、参考書、受験料で200万円程度かかったと思います。税理士試験の受験料に関しては、USCPA試験と比べて安いです。

問9 受験手数料はいくらですか。

(答) 受験手数料は、受験申込科目数に応じ、次のとおりとなっています。税理士試験受験願書の所定の箇所に受験申込科目数及び受験手数料を記入の上、受験手数料に相当する収入印紙を消印をしないで貼ってください。現金、郵便切手、証紙等では受け付けられませんので注意してください。

受験申込科目数1科目2科目3科目4科目5科目
受験手数料4,000 円5,500 円7,000 円8,500 円10,000 円
受験の申込みについて|国税庁

USCPA

学校の授業料と受験料で115万円程度かかりました。学校の授業料が55万円程度、受験料に60万円程度かかっています。
USCPA試験の受験料は税理士試験と比べて高額です。為替レートによりますが、日本で受験する場合、一回の受験に約10万円かかりました。私はAUDに3回目で合格したため、合格までに計6回受験しています。(計6回:FAR×1、BEC×1、AUD×3、REG×1)

知識のアップデートに時間がかかる

試験に合格したら、もう勉強はしないという訳にはいきません。合格後も、法改正に応じて新しい知識を得ていく必要があります。

税理士

年間36時間の研修が義務付けられています。

USCPA

ワシントン州の場合、継続教育研修 (CPE: Continuing Professional Education) を受け、3年間で120CPEの単位取得が義務付けられています(毎年少なくとも20CPEの取得が必要です)。1CPE Creditは、おおよそ1時間の研修となります。

上記の研修以外にも、日々、自ら新しい情報を取得して、知識のアップデートをすることが必要です。USCPAは、アメリカの資格ということもあり、日本にいると新しい情報を取得するのに苦労する部分があります。

ダブルライセンスのメリット・デメリットのまとめ

以上をまとめると次のようになります。

メリットデメリット
・幅広い専門知識を証明できる・時間と労力の負担が大きい
・国際的に活躍できる・経済的負担が大きい
・希少性がある・知識のアップデートに時間がかかる
・仕事を受注しやすくなる
・好きなことを仕事に活かせる

ダブルライセンスについては、メリットとデメリットを考慮し、個々のキャリア目標や状況に応じて検討が必要です。私は仕事の幅が広がったので、2つの資格を取って良かったです。今の時代、得意なことは1つだけではなく、2つあったほうがいいのかもしれません。

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