この記事について
「法人成り ①」から「法人成り ⑨」までをまとめ、加筆したものを2020年12月10日に掲載しました。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
役員社宅の概要
法人の場合、法人名義で社宅を賃借しその社宅を役員に貸し付けることがあります。この場合、「役員が会社に支払う家賃」が、「会社が家主に支払う家賃」より少なくても、税務上差し支えないことになっています。

そのため「役員が会社に支払う家賃」と「会社が家主に支払う家賃」との差額が損金となり、この部分について節税効果が期待できます。
具体例で説明します。
前提
・家賃10万円の物件
・これを会社が役員に対して社宅として貸す場合は、役員から家賃4万円を受領する。
この物件を役員個人が家主から賃借した場合は、会社が支払う家賃は0円のため、損金になる金額も0円です。
これに対して会社が役員に社宅として貸す場合を考えてみます。会社は家主に家賃10万円を支払うため、まず、この10万円が損金となります。ただし、会社は役員から家賃4万円を受け取るため、実質的には差額の6万円が損金となります。この6万円の損金が節税となるわけです。
役員が会社に支払う家賃の金額
税務上、役員が会社に支払う家賃の金額は自由に決められるわけではなく、一定の算式により求めます。もし、役員が会社に支払う家賃がこの算式により求めた金額に満たない場合には、一定額が役員への給与として課税されることになります。
算式は、「小規模な住宅」と「それ以外」で分けられています。「小規模な住宅」から見ていきましょう。
小規模な住宅
国税庁のホームページで小規模な住宅とはどのようなものか確認します。
小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅をいいます。
(出典:国税庁ホームページ)
つまり、次のような建物が小規模な住宅となります。
・法定耐用年数が30年以下の建物の場合 … 床面積が132㎡以下
・法定耐用年数が30年を超える建物の場合 … 床面積が99㎡以下
その後に、区分所有建物である場合の注意点が書かれています。区分所有建物の代表的な例として分譲マンションがあります。
次に、役員が支払う家賃の額の算式を見てみましょう。
次の(1)から(3)までの合計額が賃貸料相当額になります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
(出典:国税庁ホームページ)
「賃貸料相当額」とは、役員が会社に支払う家賃の額のことです。賃貸料相当額を支払っていれば、役員に所得税がかかりません。
算式を見ると、計算するには建物や敷地の「固定資産税の課税標準額」が必要です。固定資産税の課税標準額は、物件の所有者でなければ知ることは難しいと思われます。
「固定資産税の課税標準額」が不明な場合はこの算式での計算ができないため、実務的には家主に支払う家賃の50%を役員が負担する額とすることがあります。ただし、実際に計算すると、50%よりも少ない金額となることが多いため、ここは検討の余地があります。
小規模な住宅以外の住宅
小規模な住宅以外の住宅の場合、計算式は次のようになります。
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。
(1) 自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%(2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
(出典:国税庁ホームページ)
社宅が「自社所有」か「他から借り受けた住宅等」かで計算式が異なっています。
(1)の自社所有の場合は、固定資産税の課税標準額が分かるため、賃貸料相当額を計算することが可能です。
(2)の場合は、固定資産税の課税標準額が不明でも、「会社が家主に支払う家賃の50%の金額」は賃貸料相当額を計算することが可能です。
豪華社宅である場合
「小規模な住宅」と「小規模な住宅以外の住宅」以外にも、「豪華社宅である場合」の取り扱いが定められています。どのような住宅が豪華社宅に該当するかは次のとおりです。
いわゆる豪華社宅であるかどうかは、床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定します。なお、床面積が240平方メートル以下のものであっても、一般に貸与されている住宅等に設置されていないプール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するものについては、いわゆる豪華社宅に該当することとなります。
(出典:国税庁ホームページ)
豪華社宅に該当するかどうかの判定は次のとおりです。
・床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定する
ただし、床面積が240㎡以下のものであっても、次のものは豪華社宅に該当します。
・一般に貸与されている住宅等に設置されていないプール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するもの
豪華な社宅であると認定されると、賃貸料相当額は通常支払うべき使用料に相当する額となります。
役員に給与として課税される場合
最後に役員に対し給与として課税される場合を見てみましょう。
(1) 役員に無償で貸与する場合には、賃貸料相当額が、給与として課税されます。
(2) 役員から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合には、賃貸料相当額と受け取っている家賃との差額が給与として課税されます。
(3) 現金で支給される住宅手当や入居者が直接契約している場合の家賃負担は、社宅の貸与とは認められないので、給与として課税されます。
(出典:国税庁ホームページ)
順に見ていきましょう。
(1)では、役員から家賃を徴収しない場合には、賃貸料相当額が給与として課税されることが説明されています。
(2)では、役員が会社に支払う家賃が、賃貸料相当額よりも低い場合には、その家賃の額と賃貸料相当額との差額が給与として、役員に課税されることが説明されています。
(3)では、次の場合には役員に対し給与として課税されることが説明されています。
・役員に住宅手当を現金で支給した場合
・役員が直接家主と契約している場合
最後に今日のポイントをまとめます。
② 役員に対して給与課税がされない家賃の額(賃貸料相当額)は、社宅の規模などによって異なる
③ 賃貸料相当額を下回る家賃で役員に貸し付けると、役員に対して給与として課税される
今回は役員社宅について解説しました。節税対策のひとつとして検討してみましょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年12月7日)