期末までに行える節税対策を教えてください。
例えば、短期前払費用の特例、未払費用の計上、30万円未満の資産の購入、従業員に対する決算賞与の支給や経営セーフティ共済への加入などが考えられます。
法人であれば、通常、年1回決算を行い申告・納税をすることになります。そして申告・納税するのは法人税だけではありません。東京都の場合、申告・納税する主な税金の種類は次のようになります。
・法人税
・法人都民税
・法人事業税
・地方法人特別税
・消費税など
1年間の経営の結果として利益が出た場合でも、その全額を会社の自由に使えるわけではなく、まず税金を支払わなくてはなりません。
今後、資金繰りに余裕を持たせたい、役員報酬を増額したい、設備投資を行いたい、銀行への返済の資金を残しておきたいなどの理由から、可能な限り税金の支払いは少なく済ませたいです。架空の外注費などはもちろん認められませんが、税法で認められている範囲内で色々と節税対策ができる場合があります。
ここでは主に法人税の観点から、決算近くになって節税対策をしたい場合に、どのような対応が取れるか見ていきたいと思います。
それでは順に見ていきましょう。
短期前払費用の特例
費用を前払いした場合には、原則として、役務の提供を受けるまでは損金(※1)にできません。しかしこれには特例が設けられており「短期前払費用」に該当すれば、役務の提供を受けていない部分についても損金にできます。
(※1) 「損金」とは法人税法の用語です。「損金」は「費用」とほぼ同じ意味ですが、一部異なる取り扱いもあります。ちなみに法人税を計算する際の所得は、以下のように計算されます。
(計算式) 所得 = 益金 - 損金
前払費用
まずは通常の前払費用から、国税庁のホームページで確認してみます。
前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。
(出典:国税庁ホームページ)
前段では、前払費用の定義について書かれています。前払費用とは次のものを言います。
・継続的役務の提供を受けるために支払った費用のうち、
・期末においてまだ役務の提供を受けていない部分
ここでの役務の提供とは、サービスの提供と考えて頂ければ結構です。例えば事務所の賃貸などです。
後段では、前払費用に該当する部分は資産計上し、役務の提供を受けたときに損金になることが説明されています。
短期前払費用
次に短期前払費用について見てみましょう。
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。
(出典:国税庁ホームページ)
前段の部分では、次の要件を満たせば、短期前払費用として支払った時点でその金額を損金にできることが示されています。「1にかかわらず」とあるのは、前述した「前払費用」のことです。
・前払費用であること
・支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
・支払った額を損金にすることを毎期継続していること
後段の部分では、短期前払費用にならない場合が書かれています。例えば、銀行から借入れをして、その資金で有価証券を購入し運用する場合など、収益と費用を対応させる必要があるものは、支払い時点で短期前払費用として損金にすることはできないことが書かれています。
また、役務の提供が対象のため、物の購入(資産の譲渡)は短期前払費用とならないことになります。例えば、毎月冊子が送付されるような年間購読料は、物の購入となるため、前払してもこの特例の適用は受けられないことになります。
具体例
短期前払費用の具体例を確認します。
事例1:期間40年の土地賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う。
事例2:期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う。
事例3:期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う。
事例4:期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。
事例5:期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。
(出典:国税庁ホームページ)
このうち事例1から事例4までは短期前払費用として支払の時点でその全額を損金にすることができます。
一方事例5については、2月の時点で「4月~翌年3月」の家賃を支払っており、支払い時点から1年以内に役務の提供を受けていない部分があるため、短期前払費用の特例は受けられないことになります。
このことは次のように説明されています。
役務の受入れの開始前にその対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするようなものは、何らかの歯止めを置いた上で本通達の適用を認めることが相当と考えられます。
(出典:国税庁ホームページ)
その他の注意点
その他の主な注意点は次のとおりです。
・契約書で月払いとなっているものを年払いしても、短期前払費用とはなりません。契約書などで、年払いすることにつきお互い合意することが必要となります。
・等質等量のサービスであること。具体的には上記に挙げた家賃などが対象となります。
短期前払費用の特例のポイントをまとめます。
② ただし、短期前払費用の特例を受けるためには要件があるため、すべての要件を満たしているかの確認が必要
未払計上
当期中に役務の提供(サービスの提供)を受けているが、期末において未払いとなっている場合があります。その場合、決算において未払費用として計上することで、当期の損金とすることができます。
ここでは、社会保険料の未払計上と固定資産税の未払計上を中心に見ていきます。
社会保険料の未払計上
社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は、従業員から預かった保険料と会社負担分の保険料を合わせて納付します。社会保険料の納付は、原則として、翌月の末日に納付します。例えば、3月分の社会保険料は4月末日が納付期限となります。
そうすると、3月決算の法人の場合、3月分の社会保険料は期末時点(3月31日)で未払いとなっています。この社会保険料はいつの時点の損金になるのか、通達(※2)を確認してみます。
(※2)通達とは、課税庁(税務署)内部での税法の解釈や運用指針が示されたものと考えて頂ければ結構です。あくまで内部規定であり法律ではありません。通達のとおりの税務処理を行っておけば、税務調査があっても、問題になることが少なくなります。
(社会保険料の損金算入の時期についての通達)
9-3-2 法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(昭55年直法2-15「十三」、平15年課法2-22「九」、平16年課法2-14「十」、平26年課法2-6「四」により改正)
(1) 健康保険法第155条《保険料》又は厚生年金保険法第81条《保険料》の規定により徴収される保険料
(2) 旧効力厚生年金保険法第138条《掛金》の規定により徴収される掛金(同条第5項《設立事業所の減少に係る掛金の一括徴収》又は第6項《解散時の掛金の一括徴収》の規定により徴収される掛金を除く。)又は同法第140条《徴収金》の規定により徴収される徴収金
(注) 同法第138条第5項又は第6項の規定により徴収される掛金については、納付義務の確定した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
(出典:国税庁ホームページ)
1行目から3行目に次のように書いてあります。
これにより3月決算の法人の場合、3月分の社会保険料が3月31日時点で未払いであったとしても、未払計上することよってその3月決算の損金にすることが認められていることが分かります。
損金にすることができるのは、あくまで会社負担分であることに注意しましょう。
固定資産税の未払計上
(1) 固定資産税について
固定資産税とは、家屋や土地などを所有している場合にかかる税金です。固定資産税は、毎年1月1日時点での所有者に対して課税されます。
納税通知書は4月~6月頃に発送されてきます。納付は4回の分割になっており、それぞれの納期限は、6月、9月、12月、翌年2月(東京都の場合)となっています。ただし、全額を一括で納付することもできます。
(2)納期限が到来していない固定資産税の未払計上
固定資産税はの納付方法として、分割納付と一括納付があります。損金となるのはどの時点なのか見てみます。
(租税公課の損金算入時期)
(2) 賦課課税方式による租税
不動産取得税、自動車税、固定資産税、都市計画税などの賦課課税方式による租税については、賦課決定のあった事業年度となります。
ただし、納期の開始日の事業年度又は実際に納付した事業年度において損金経理をした場合には、その損金経理をした事業年度となります。
(出典:国税庁ホームページ)
これにより、次の3つの時点で損金にできることが分かります。
① 賦課決定のあった事業年度
② 納期の開始日の事業年度
③ 実際に納付した事業年度
もう少し具体的に見ていきます。
①の「賦課決定のあった事業年度」とは納税通知書が交付された日(納税通知書が到着した日)となります。したがって、決算日において未納となっている金額を未払計上することにより、この交付された日の属する事業年度に固定資産税の全額を損金にすることができます。
②の「納期の開始日の事業年度」
固定資産税を年4回で分割納付する場合、納期は次のように定められています。
(例)6月1日から6月30日まで(納期限 6月30日)
従ってこの場合、納期限までに未納であったとしても未払計上することにより、納期の開始日である6月1日の属する事業年度の損金にできることになります。
③の「実際に納付した事業年度」とは、固定資産税を実際に納付したときの損金になるということです。
法人の節税を考えた場合、①の「賦課決定のあった事業年度」で4期分の全額を損金にすると、もっとも利益を減らすことができます。
その他の未払計上
上記の他に、決算において未払費用として計上を検討するものの一例を挙げます。
・水道光熱費
・電話料金
・インターネット料金など
未払計上のポイントをまとめます。
② 固定資産税は、賦課決定のあった事業年度に4期分全額を損金とすることができる
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
10万円以上の資産を取得した場合には、原則として、取得した年に全額を経費計上することはできません。資産計上をしたうえで減価償却(※3)を行うことになります。
ただし一定の要件を満たしている場合で、30万円未満の資産を取得したときは、その取得した年に全額を経費計上することができます。この特例のことを「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といいます。
(※3) 減価償却とは
例えば、20万円のパソコンを取得した場合には、4年に渡って毎年5万円ずつ(期首月に事業の用に供した場合)経費に計上していきます。このようにその資産の耐用年数(国が定めたその資産を使用できる年数)によって、毎年、経費計上することを減価償却といいます。
国税庁のホームページでこの特例の概要を見てみます。
特例の概要
中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を平成18年4月1日から令和4年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。
(出典:国税庁ホームページ)
ここでは、「中小企業者等」が30万円未満の減価償却資産を取得して、かつ、事業の用に供した場合には、その金額を損金にできる旨が説明されています。中小企業者等とはどのような法人なのかを次に見てみます。
適用対象法人
この特例の対象となる法人は、青色申告法人である中小企業者又は農業協同組合等で、常時使用する従業員の数が1,000人以下(令和2年4月1日以後に取得などする場合は500人以下とされ、連結法人が除かれます。)の法人に限られます。
(出典:国税庁ホームページ)
ここでは、「青色申告法人である中小企業者」などが対象であることが説明されています。その後に従業員数の要件が付記されています。
次はどのような法人が「中小企業者」に該当するかの説明です。
中小企業者とは、次に掲げる法人をいいます。なお、平成31年4月1日以後に開始する事業年度においては、中小企業者のうち適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。)に該当するものは除かれます。
(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人
イ その発行済株式又は出資(平成31年4月1日以後に開始する事業年度においては、自己の株式又は出資を除きます。以下同じです。)の総数又は総額の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人
(出典:国税庁ホームページ)
イの後にも引き続き要件が記載されていますが割愛しています。通常は、資本金の額が1億円以下の法人であれば中小企業者に該当します。
ただし、「事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人」や、「大規模な法人により、その法人の一定数の株式が保有されている法人」などの場合には、資本金が1億円以下であっても中小企業者に該当しない例外がありますので注意しましょう。
次にどのような資産が特例の対象になるのか見てみます。
適用対象資産
この特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産(以下「少額減価償却資産」といいます。)です。
ただし、適用を受ける事業年度における少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円(事業年度が1年に満たない場合には300万円を12で除し、これにその事業年度の月数を掛けた金額。月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とします。以下同じです。)を超えるときは、その取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの少額減価償却資産の取得価額の合計額が限度となります。
(出典:国税庁ホームページ)
取得価額が30万円未満の減価償却資産が対象になります。
ただし後段で、損金にできる金額の上限が定められており、1年間の少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円までとなっています。括弧内では、事業年度が1年に満たない場合には300万円を月数按分した金額が限度になることが説明されています。
ちなみに、30万円未満の判定にあたっての消費税の取り扱いについては、消費税の経理方式で異なっており次のようになります。
① 税抜経理の場合 … 「税抜き」で30万円未満の判定をする
② 税込経理の場合 … 「税込み」で30万円未満の判定をする
例えば、税抜価格290,000円、税込価格319,000円の場合の判定は次のとおりです。
① 税抜経理の場合 … 税抜価格が290,000円であり、300,000円未満であるため、少額減価償却資産に該当する
② 税込経理の場合 … 税込価格が319,000円であり、300,000円以上であるため、少額減価償却資産に該当しない
このように同額の資産を取得したとしても、経理方式により30万円未満の減価償却資産に該当するか否かが異なるため注意しましょう。
その他の要件
その他の主な要件を以下に挙げます。
・購入しただけでは要件を満たさず、事業の用に供することが必要
・少額減価償却資産の取得価額に相当する金額につき損金経理をすること
・確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付して申告すること
留意点として、10万円未満の器具備品、機械装置などの資産を取得し事業の用に供した場合には、この30万円未満の特例によらなくても、その全額を損金にすることができます。そのため、資産の金額が10万円以上30万円未満のときに、この特例を使うかどうかの検討を行うことになります。
30万円未満の資産を取得したときのポイントをまとめます。
② 主な要件は次のとおり
・資本金1億円以下の青色申告をしている法人であること
・30万円未満の減価償却資産を取得し、事業の用に供したこと
・損金経理をすること
・確定申告書に明細書を添付すること
決算賞与
概要
決算が近くなると当期の業績がおおよそ分かってきます。そのときに会社の業績がいい場合には、従業員の貢献をねぎらうため、また労働意欲を高めるためにも決算賞与を支給する場合があります。
この決算賞与は期末時点で未払いであっても、一定の要件を満たせばその決算の損金にすることができます。
国税庁のホームページの「使用人賞与の損金算入時期」を見ながら説明を進めていきます。
使用人賞与
法人が使用人に対して支給する賞与の額は、次に掲げる賞与の区分に応じ、それぞれ次の事業年度の損金の額に算入します。なお、使用人に対して支給する賞与の額には、使用人兼務役員に対して支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。
(出典:国税庁ホームページ)
従業員のことをここでは「使用人」と表現しています。使用人に対して賞与を支給した場合には、賞与の区分によって、損金に算入する時期が異なることが書かれています。
また、「なお、…」以降では、使用人兼務役員に対する賞与のことが書かれています。使用人兼務役員とは、簡潔に説明すると次のすべての要件を満たす者のことをいいます。
・役員である
・部長、課長などの職制上の地位を有している
・常時使用人として職務に従事する一定の者である
使用人兼務役員に対する賞与のうち、使用人の職務に対応する部分の賞与は、「使用人に対する賞与」と同様の取り扱いであることが説明されています。
賞与の損金算入の時期の区分は、次の(1)から(3)の3つに分かれています。
(1)から順に見ていきましょう。
使用人賞与の損金算入時期 (1)
(1) 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限ります。)
その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度
(出典:国税庁ホームページ)
これは決算賞与の取り扱いではなく、就業規則などで賞与の支給予定日が定められている場合に、いつ損金にできるのかが説明されています。
これによると、例えば、支給予定日が到来している場合で資金繰りの都合で支給予定日に賞与の支払いができなかった場合でも、使用人に支給額を通知し、未払いとして損金経理すれば、次のいずれか遅い日の損金にできます。
・支給予定日
・使用人に賞与の支給額を通知した日
資金繰りの都合で支給が遅れても、支給予定日などに損金にできることを覚えておくと良いでしょう。
次は(2)です。
使用人賞与の損金算入時期 (2)
(2) 次に掲げる要件の全てを満たす賞与
使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
(注1) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
(注2) 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。
ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
(出典:国税庁ホームページ)
これが「決算賞与」の損金算入時期の取り扱いになります。上記の要件をすべて満たせば、「使用人にその支給額の通知をした日」において損金にすることができます。
つまり、決算前に通知をすれば、その決算の損金にできることになります。実際の決算賞与の支払いは、翌期になっても構いません。
要件を順に見ていきましょう。
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
(出典:国税庁ホームページ)
この部分で、決算賞与の支給額について「一人ずつ」かつ「すべての使用人」に通知をしなければならないことが書かれています。
「イ」には注が2つあり、まずは(注1)です。
(注1) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
(出典:国税庁ホームページ)
まず、支給の通知をした使用人には、支給日までに退職していたとしても支給をしなければなりません。
更に、例えば給与規定に「支給日に在職していない従業員には賞与を支給しない」などの規定があるときは、そもそも要件を満たさない可能性がでてきます。この場合に決算賞与を未払計上した決算の損金にしたいときは、給与規定の改定などが必要になると思われます。
次は(注2)です。
(注2) 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。
(出典:国税庁ホームページ)
この注は「正社員」と「パートタイムの従業員(※4)」が在籍している場合について説明をしています。
つまり、正社員には未払賞与としてその決算の損金に計上し、パートタイムの従業員には、未払賞与を計上せずに翌期の実際の支給の際に損金にすることも、その他の要件を満たしていれば認められることになります。
(※4)雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者は除かれています。
次は、ロとハを一緒に見てみましょう。
ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
(出典:国税庁ホームページ)
ロでは、期首から1か月以内に、使用人に通知したとおりに賞与を支給しなければならない旨が書かれています。
ハでは、従業員に通知をした日の属する事業年度(決算)で未払賞与として損金経理をすることが要件であることが書かれています。
使用人賞与の損金算入時期 (3)
(3) 上記(1)及び(2)に掲げる賞与以外の賞与
その支払をした日の属する事業年度
念のため(3)も確認しておきましょう。ここでは、(1)及び(2)に該当しなければ、賞与の支払いをしたときに損金計上できることが説明されています。
決算賞与の主なポイントをまとめます。
① 期末までに、賞与の支給額を、支給を受けるすべての使用人に通知すること
② その決算において、未払賞与として損金計上すること
③ 期首から1か月以内に、通知したすべての使用人に、通知したとおりに支給すること
(出典:国税庁ホームページ)
決算賞与を従業員に支給するのは、従業員の貢献をねぎらうため、また労働意欲を高めるといった目的がありますが、節税対策として利用できることも覚えておくと良いと思います。
経営セーフティー共済(中小企業倒産防止共済制度)
概要
「経営セーフティー共済」とは独立行政法人 中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます)が運営する共済制度です。
この共済制度は、取引先事業者が倒産(※5)した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度となっています。無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れができ、掛金は損金に算入することができます。
経営セーフティ共済は、継続して1年以上事業を行っている中小企業者で、一定の加入要件に該当する場合に加入できます。
(※5)この制度の倒産とは、法的整理、私的整理などが該当しますが、夜逃げは該当しません。
経営セーフティー共済の特徴
この共済制度の特徴は次のとおりです。
特徴 ①
取引先が倒産した場合は、売掛金などが回収できずに運転資金に影響を及ぼすことが考えられます。そのような場合に、この共済制度に加入していればその取引先との取引の確認が済み次第、すぐに借入れができます。
特徴 ②
共済金の借入れは、無担保・無保証人で受けることができます。共済金貸付額は納付した掛金総額の10倍まで(※6)となっています。
(※6)最高8,000万円。かつ、回収困難となった売掛金債権等の額が限度となります。
特徴 ③
掛金は月5,000円 ~ 月200,000円の間で選ぶことができ、納付した掛金は損金にすることができます。掛金は掛金総額が800万円に達するまで積み立てることができます。
特徴 ④
共済契約を解約した場合には解約手当金を受け取れます。自己都合の解約の場合でも次のように納付した掛金が戻ります。
・掛金を12か月以上納めている場合 … 掛金総額の8割以上が戻ります
・掛金を40か月以上納めている場合 … 掛金全額が戻ります
節税の観点からは「特徴 ③」が重要です。掛金は月5,000円 ~ 月200,000円となっているので、最高で年2,400,000円(月200,000円 × 12か月)を掛金として支払うことができます。かつ、その支払った金額を損金とすることが可能です。
更に、1年以内の前納掛金は払い込んだときの損金にできます(※7)。したがって事業年度終了の前に、1年分として2,400,000円を納付すればその全額を損金にすることができます。
(※7)前納の期間が1年を超えるものは、決算期において、期間の経過に応じて損金にすることができます。
共済金について
取引先が倒産し、回収が困難になった売掛金債権等や前渡金返還請求権(以下「被害額」といいます)がある場合には、共済金の借入れを受けることができます。
貸付金や融通手形、不動産賃貸料などは対象にならないので注意しましょう。また取引先に対し買掛金などの債務がある場合には、被害額と相殺されます。
(1) 借入限度額
借入限度額は、次の額のうちいずれか少ない金額になります。
① 被害額
② 掛金総額の10倍に相当する額
(2) 返済期間
返済期間は次の表のとおりです。
借入額 | 返済期間(6か月の据置期間を含む) |
5,000万円未満 | 5年 |
5,000万円以上 6,500万円未満 | 6年 |
6,500万円以上 8,000万円以下 | 7年 |
(3) 利率
借入れは無利子です。ただし借入れをした場合には、借入額の10分の1に相当する金額が、払い込んだ掛金から控除されます。
例えば、払い込んだ掛金が500万円あり、取引先の倒産で5,000万円の借入れをしたとしましょう。払い込んだ掛金500万から500万円(5,000万円 × 1/10)が控除されることになります。そのため無利子とはなっていますが、この場合控除された500万円が利子に相当すると考えることもできます。
一時貸付金について
取引先が倒産していない場合でも、臨時に事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借入れができます。借入限度額は次のとおりです。
掛金納付月数 | 一時貸付金の借入限度額 |
1か月 ~ 11か月 | 0円 |
12か月 ~ 23か月 | 掛金総額 × 75% × 95% |
24か月 ~ 29か月 | 掛金総額 × 80% × 95% |
30か月 ~ 35か月 | 掛金総額 × 85% × 95% |
36か月 ~ 39か月 | 掛金総額 × 90% × 95% |
40か月以上 | 掛金総額 × 95% × 95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円 × 100% × 95%(760万円) |
解約手当金について
解約した場合には解約手当金を受けることができます。解約手当金の支給率は、解約理由によって異なります。
(1) 任意契約
契約者が任意でする解約です。いつでも任意で解約できます。
(2) みなし解約
法人の解散等があった場合に、その時点で解約されたものとみなす場合です。
(3) 機構解約
掛金の滞納などがあった場合に、中小機構が行う解約です。
それぞれの支給率は次の表のとおりです。
掛金納付月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
1か月 ~ 11か月 | 0% | 0% | 0% |
12か月 ~ 23か月 | 80% | 85% | 75% |
24か月 ~ 29か月 | 85% | 90% | 80% |
30か月 ~ 35か月 | 90% | 95% | 85% |
36か月 ~ 39か月 | 95% | 100% | 90% |
40か月以上 | 100% | 100% | 95% |
法人税の申告書への記載
経営セーフティ共済に加入し、掛金を支払って損金にする場合には、法人税の申告書への記載が必要になります。
経営セーフティ共済のポイントをまとめます。
① 掛金は損金に計上することができる
② 掛金は月5,000円~月200,000円となっており、最高で年2,400,000円
(掛金総額は8,000,000円が上限)
③ 1年以内の前納については払い込んだときの損金にできる
経営セーフティー共済は連鎖倒産を防止するためのものですが、節税対策としても利用できます。
より詳しい情報が中小機構のホームページに掲載されていますので、この共済への加入に興味がある方はこちらも確認してみてください。
貸倒引当金
期末において売掛金などの金銭債権がある場合には貸倒引当金を設定することができます。貸倒引当金とは、簡潔に説明すると翌期以降に発生する可能性のある売掛金等の貸倒れによる損失を、当期において計上するものです。
当期において損失計上できるため、これが損金となり節税効果が期待できます。
税込経理をしている場合の消費税の未払計上
消費税の経理方式には、「税抜経理方式」と「税込経理方式」とがあります。
・税抜経理方式
本体価格と消費税部分を区分して経理する方式になります。
・税込経理方式
本体価格と消費税部分を区分せずに、合計額で経理する方式になります。
消費税は、原則として年1回、消費税の申告書を提出し納付を行うことになります。「税込経理方式」を採用している場合には、納付する消費税は損金となります。この損金となるタイミングは次のとおりです。
(原則)消費税の申告書を提出したとき
例えば、3月決算の会社で5月に消費税の申告書を提出した場合には、その3月決算では損金になりません。翌期の5月に申告書を提出したときの損金となります。
(特例)消費税の額を未払計上したとき
消費税等の額を損金経理により未払計上した場合には、その計上した事業年度の損金にできます。
そのため、決算において消費税の額を未払計上することによって、原則よりも早期に損金計上することができます。
固定資産の除却
使用していない固定資産がある場合は、除却することで固定資産の帳簿価額を固定資産除却損として損金にすることができます。除却の方法として、廃棄のほか、有姿除却という方法も認められています。
(有姿除却)
次に掲げるような固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができます。
① その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
② 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
創立費・開業費償却
創立費や開業費が繰延資産として帳簿に残っている場合には、これらを償却することによって節税効果が見込まれます。
【創立費や開業費を支出したときの取り扱い】
・支出時の損金とする、または
・繰延資産として資産計上し翌年以後に償却する
創立費と開業費を繰延資産とした場合、いくら償却するかは法人の任意です。そのため、帳簿に残っている金額を全額償却して損金とすることも可能です。
10万円未満の資産の取得
固定資産を取得した場合には、通常、資産計上し減価償却を行っていくことになります。ただし、取得価額が10万円未満の器具備品などの資産を取得し、事業の用に供した場合には、その事業の用に供したときの損金にすることができます。
ちなみに、10万円未満の判定にあたっての消費税の取り扱いについては、消費税の経理方式で異なっており次のようになります。
① 税抜経理の場合 … 「税抜き」で10万円未満の判定をする
② 税込経理の場合 … 「税込み」で10万円未満の判定をする
例えば、税抜価格95,000円、税込価格104,500円の場合の判定は次の通りです。
① 税抜経理の場合 … 税抜価格が 95,000円のため、100,000円未満となる
② 税込経理の場合 … 税込価格が104,500円のため、100,000円未満とならない
取得しただけでは損金にできず、事業の用に供する必要がある点にも注意しましょう。
節税の考え方
金銭の支出を伴う節税を行う前提として、その支出により売上アップに貢献するのか、業務効率が良くなるのかなどの検討が必要です。無理な節税をせずに法人税等の税金を支払って、残りを将来の資金として蓄えておいたほうがいい場合もあります。
例えば、10万円未満の資産を取得して税金が減ったとしても、それが売上アップや業務効率につながらなければ意味がありません。このことを検討したうえで、上手に節税を行いましょう。
【当事務所へのご依頼・お問合わせ】
今回は法人の節税対策について解説しました。
上手に節税をして、毎月の資金繰りや、役員報酬の増額、設備投資、銀行への返済の資金などに充てていくのが理想の経営だと思います。
節税対策やその他の税務上のアドバイスが必要な場合は、当事務所で対応しております。
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