また、節税できる方法があれば教えてください。
ただし、マイホームの売却には特例措置が設けられており、特例を適用すればこれらの税金がかからない場合があります。
まずはそれぞれの概要です。
(1) マイホームの売却にかかる税金
不動産を売却した場合には、譲渡益に対して所得税と住民税がかかります。
税率は、不動産を所有していた期間によって異なります。
(2) マイホームの売却にかかる税金に対する特例
マイホームを売却した場合には、この所得税と住民税に対する特例が設けられています。
例えば「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」や「特定の居住用財産の買換えの特例」などです。このような特例を適用できれば税金を減額できたり、場合によっては税金がかからない場合もあります。
(3) マイホームを売却して譲渡損となった場合
マイホームを売却して譲渡損となった場合には、その損失を他の所得から控除できる損益通算という特例もあります。
それでは順に見ていきましょう。
※ 新型コロナウィルスの影響により要件などが変更になっている場合があります。国税庁や市区町村などのホームページから最新情報の確認ができます。
※ 以下に挙げた要件は主なものになります。
不動産を売却した場合の税金
(参考:暮らしの税情報-土地や建物を売ったとき)

(出典:国税庁パンフレット)
土地や建物を売却して利益となった場合には、その利益に対して所得税と住民税がかかります。これはマイホームを売却した場合も同様です。
所得税法ではこの利益のことを譲渡所得と呼んでいます。譲渡所得の計算方法は次のとおりです。
(計算方法) 収入金額 - 取得費 -譲渡費用 = 譲渡所得
「取得費」とは売却した住宅の購入代金(※1)が主なものになります。
「譲渡費用」とは仲介手数料などの売却に要した費用です。
算出された譲渡所得に税率を乗じて所得税と住民税を計算します。
税率は不動産の所有期間により異なっています。
所有期間が5年以下の場合(短期譲渡所得)
所有期間が5年以下の譲渡を「短期譲渡所得」といいます。短期譲渡所得の場合の税率は次のとおりです。
・所得税 30%(※2)
・住民税 9%
ちなみに、所有期間が5年以下か、5年を超えているかの判定は、売却をした土地・建物の取得日から売却した年の1月1日までの期間で判定します。
(※1)建物部分については、購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いたあとの金額になります。
(※2)令和19年までは所得税に「復興特別所得税(所得税額 × 2.1%)」が加算されます。(以下同様)
所有期間が5年超の場合(長期譲渡所得)
所有期間が5年超の譲渡を「長期譲渡所得」といいます。長期譲渡所得の場合の税率は以下のとおりです。
・所得税 15%
・住民税 5%
長期譲渡所得のほうが税率が低くなっています。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
ここからは、マイホームを売却した場合の特例を見ていきましょう。
マイホームを売却した場合は、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。すなわち、譲渡所得が3,000万円以下であれば所得税、住民税がかかりません。
(1) 特例を受けるための要件
主な要件を見ていきます。
① 現在、住んでいる住宅の売却、または
② 以前に住んでいた住宅の売却。この場合には、住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却しなければなりません。
①、②以外にも、「住んでいた住宅を取り壊してその土地を売却した場合」や「災害で滅失した住宅の土地を売却した場合」にも一定の要件のもと、適用が認められています。
注意点として、売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係の場合には、特例の適用は認めれていません。
(2) 適用を受けるための手続
この特例を受けるためには、確定申告書に必要書類を添付して税務署に提出する必要があります。必要書類の一例を以下に挙げます。
(参考:譲渡所得の内訳書)

(出典:国税庁ホームページ)
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
・戸籍の附票の写しなど(住民票に記載されている住所と売却した物件の所在地が売買契約締結日の前日において異なる場合に必要)
所有期間が10年超の場合の軽減税率の特例
10年を超えて所有していたマイホームを売却した場合、税率が軽減される特例です。この特例は上記の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と併用できます。
(1) 特例を受けるための適用要件
マイホームを売却した年の1月1日において、家屋と敷地の所有期間がともに10年を超えていることが要件の1つとなっています。
他の要件としては、親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないことや、売却した建物や土地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないことなどが挙げられます。
(2) 税率
譲渡所得に乗じる税率は、次のように軽減されます。
譲渡所得が6,000万円以下の部分 … 所得税 10%、住民税 4%
譲渡所得が6,000万円 超 の 部 分 … 所得税 15%、住民税 5%
ここでの譲渡所得は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を適用した場合の、3,000万円控除後の金額となります。
(3) 適用を受けるための手続
この特例を受けるためには、確定申告書に必要書類を添付して税務署に提出する必要があります。必要書類の一例を以下に挙げます。
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
・売却した家屋やその敷地の登記事項証明書
・戸籍の附票の写しなど(住民票に記載されている住所と売却した物件の所在地が売買契約締結日の前日において異なる場合に必要)
特定の居住用財産の買換えの特例
概要
不動産を売却すると売却益に対して所得税と住民税がかかります。
したがって、マイホームを買い換えるときも、売却によって利益が出れば税金がかかるのが原則です。そうすると、その納税により新しい住宅の購入資金が減少して買い換えに影響する可能性があります。
そのため、一定の要件を満たした場合には、売却益に対する税金を将来に繰り延べることができます。この制度を「特定の居住用財産の買換えの特例(以下「買替え特例」といいます)」といいます。
どのくらい税金が減少するか
この特例を適用した場合どのくらい税金が減少するかは、「今まで住んでいた住宅(譲渡資産)の売却価格」と「新しく購入する住宅(買換資産)の購入価格」のどちらが大きいかで変わってきます。
(1) 購入価格のほうが大きい場合(売却価格 ≦ 購入価格)
この場合は、今まで住んでいた住宅を売却したときの税額は0円となります。
ただし、税金が免除になったわけではなく、税金の支払いを繰り延べる制度になります。そのため、新しく購入した住宅を将来売却すると繰り延べた部分も考慮して税額が計算されます。
(2) 購入価格のほうが小さい場合(売却価格 > 購入価格)
この場合には、売却代金のうち、新しい住宅の購入代金を上回る部分に対して税金がかかります。算式は次のとおりです。①と同様に、税金の支払いの繰り延べとなります。
① 譲渡所得の算式
イ、収入金額 …(売却価格 - 購入価格)
ロ、必要経費 …(譲渡資産の取得費 + 譲渡費用)× 収入金額 ÷ 売却価格
ハ、譲渡所得 …(イ - ロ)
② 税額計算
ニ、所得税 譲渡所得 × 15%
ホ、住民税 譲渡所得 × 5%
納める税額は、ニとホの合計額となります。
特例を受けるための適用要件
この特例を受けるための要件の一例は次のとおりです。
(1) 売却する住宅の要件
① 売却する住宅は自分が住んでいたもの
② 売却した年の1月1日現在で、所有期間が10年超
③ 売却した年の1月1日現在で、実際に居住した期間が10年以上
④ 売却代金が1億円以下であること
(2) 購入する住宅の要件
① 住宅を売却した年の前年から翌年までの3年の間に住宅を買い換えること
② 購入する住宅の建物の床面積が50㎡以上
③ 購入する住宅の土地の面積が500㎡以下
④ 買い換えた住宅には、取得した時期により次の期限までに住むこと
イ 売却した年かその前年に取得したときは、売った年の翌年12月31日まで
ロ 売却した年の翌年に取得したときは、取得した年の翌年12月31日まで
⑤ 買い換える住宅が、耐火建築物の中古住宅である場合
イ 取得の日以前25年以内に建築されたものであること、または
ロ 一定の耐震基準を満たすものであること。
主な要件を挙げましたが、売却する住宅、購入する住宅の両方に要件があるため、かなり数が多いです。判断に迷ったときは専門家に相談することをおすすめします。
適用を受けるための手続
この特例を受けるためには確定申告が必要です。確定申告書に必要書類を添付して税務署に提出します。必要書類の一例を以下に挙げます。
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
・売却した土地、家屋の登記事項証明書
・購入した土地、家屋の登記事項証明書
・売買契約書、など
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例」との選択適用
買い換えの特例は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例(以下「3,000万円控除の特例」といいます)と同時に受けることはできません。したがって、どちらの特例を受けたほうが有利か検討したうえで選択する必要があります。
① 譲渡所得が3,000万円以下の場合
「3,000万円控除の特例」を適用すれば税額は0円となります。
② 譲渡所得が3,000万円超の場合
この場合はどちらの特例を受けたほうが有利か、検討する必要があります。ポイントは「買替え特例」は税金の支払いの繰り延べであるため、買い換えた住宅を将来売却するときは、その時点で繰り延べた部分も考慮して税額が計算されます。
「買替え特例」のメリット・デメリットをいくつか挙げてみます。
メリット
・ 買い替え時に税負担がないか、少なくなる
・ そのため購入代金に充てられる金額が多くなる
デメリット
・ 税金の免除ではなく、課税の繰り延べとなる
・ そのため、買い換えた住宅を将来売却したときに繰り延べた部分も考慮して税額が計算される
譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
概要
マイホームを売却した場合に譲渡損となったときは、その損失を他の所得から控除できる特例が定められています。これを「損益通算」といいます。
さらに、売却した年に損益通算しても損失が残ってしまう場合には、翌年以後3年間に限り、その損失を繰り越すことができます。これを「繰越控除」といいます。
「損益通算」と「繰越控除」の適用を考える場合、住宅の買い替えをしない場合と、住宅の買い替えをする場合の2種類があります。
まずは、「住宅の買い替えをしない場合」を見ていきます。
「住宅の買い替えをしない場合」の損益通算と繰越控除
(1) 特例の適用ができる場合
住宅の買い替えをしない場合には、まず、以下の①と②の両方の要件を満たす必要があります。
① 住宅の売却価額が、残っている住宅ローンの残額に満たなかった
② その住宅の売却により譲渡損失となった
(2) 特例の適用要件
上記以外に、この特例の適用を受けるための要件の一例を次に挙げます。
① 売却年の1月1日現在で、所有期間5年超の住宅であること
② 売買契約日の前日において、売却した住宅に係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること
③ 繰越控除を適用する年分の所得が3,000万円以下であること
④ 住宅を売却する前年、前々年に「居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除」などの特例を適用していないこと
⑤ 親子や夫婦など、特別の関係がある人に対する住宅の売却ではないこと
(3) 損益通算の限度額
住宅の売却により生じた譲渡損失の金額を他の所得と損益通算できますが、これには一定の限度額が定められています。限度額の計算は次のとおりです。
(計算式)
① 住宅の売買契約日の前日における住宅ローンの残高
② 住宅の売却代金
③ ① - ② = 損益通算限度額
つまり、売却代金で返済しきれなかった住宅ローンの金額相当額が限度となっています。
(4) 特例の適用手続
この特例を受けるためには確定申告が必要です 。確定申告書に必要書類を添付して税務署に提出します。必要書類の一例を以下に挙げます。
① 特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
② 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書【租税特別措置法第41条の5の2用】

(出典:国税庁ホームページ)
③ 売却したマイホームに関する次の書類
イ 登記事項証明書や売買契約書の写しなど
ロ「譲渡資産に係る住宅借入金等の残高証明書」(売買契約日の前日のもの)
④ 戸籍の附票の写しなど(住民票に記載されている住所と売却した物件の所在地が売買契約締結日の前日において異なる場合に必要)
(5) 繰越控除
損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、確定申告書の提出など一定の要件のもの、譲渡の年の翌年以後3年目まで繰り越し、他の所得から控除することができます。
「住宅の買い替えをする場合」の損益通算と繰越控除
住宅の買い替えをして、この「損益通算」と「繰越控除」の特例の適用を受ける場合は、今まで住んでいた住宅に対して住宅ローン残高が残っているかどうかは要件ではありません。
その代わり、取得する住宅についての要件が加わります。
(1) 特例の適用ができる場合
住宅の買い替えをすることが前提となります。
(2) 特例の適用要件
特例の適用を受けるためには住宅の買い替え以外にも要件があります。ここでは取得する住宅(買換資産)についての要件を中心にいくつか見てみましょう。
① 今まで住んでいた住宅を売却する前年から翌年中の間に、買換資産を取得すること
② 買換資産の床面積が50㎡以上であること。
③ 買換資産を取得した年の翌年12月31日までに居住の用に供すること(又は供する見込みであること)
④ 買換資産を取得した年の12月31日において、その住宅について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること
(3) 特例の適用手続
この特例を受けるためには確定申告が必要です 。確定申告書に必要書類を添付して税務署に提出します。必要書類の一例を次に挙げます。
① 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
② 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書【租税特別措置法第41条の5用】

(出典:国税庁ホームページ)
③ 売却したマイホームに関する次の書類
イ 登記事項証明書や売買契約書の写しなど
ロ 戸籍の附票の写しなど(住民票に記載されている住所と売却した物件の所在地が売買契約締結日の前日において異なる場合に必要)
④ 購入したマイホームに関する次の書類
イ 登記事項証明書や売買契約書の写しなど
ロ 年末における住宅借入金等の残高証明書
ハ 確定申告書の提出の日までに買い換えた住宅に住んでいない場合には、住まいとして使用を開始する予定年月日その他の事項を記載したもの
(4) 繰越控除
損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、確定申告書の提出など一定の要件のもの、譲渡の年の翌年以後3年目まで繰り越し、他の所得から控除することができます。
【当事務所へのご依頼・お問合わせ】
今回はマイホームの売却に関する税金について解説しました。
マイホームを売却すると譲渡益に対して所得税、住民税がかかります。ただし、今後の生活に支障が出ないように、この税金に対して色々な特例措置が設けられています。
これらの特例措置には要件が多数定められているものが多く、ご自身で手続きをされる場合には、手間と時間がかかるものです。
もし税理士に任せたい場合には、当事務所でもマイホームの売却に関する相談や、確定申告を承っております。
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