また、どのくらいの相続税の納付になるのか知りたいです。
また、被相続人に生前に所得があった場合には、所得税の準確定申告書の提出と納付が必要になることがあります。
相続税には基礎控除というものがあり、財産の額がこの範囲内なら相続税はかかりません。
相続税法の改正が平成27年にあった影響で、相続税がかかる人の対象が広がり、かつ、納税額も増えることになりました。相続の手続きというものは人生で何度も経験するものではなく、初めてという方も多いと思います。
ここでは相続が発生した場合の次の点につき解説いたします。
・相続税の申告までの主な手続き
・相続税の計算方法
それでは見ていきます。
※ 新型コロナウィルスの影響により申告期限や納期限が延長になっている場合があります。国税庁や市区町村などのホームページから最新情報の確認ができます。
【申告までの主な手続き】

相続の開始から相続税申告書の提出までの主な手続き
市区町村役場への死亡届の提出
- 死亡の事実を知った日から7日以内
(参考:死亡届)

(出典:法務局)
死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村役場に死亡届を出します。死亡届を提出することで「火葬許可証」が発行されます。死亡届の提出は、葬儀社の方に代行してもらえる場合もあります。
どのように相続するかの検討
- 被相続人の死亡を知った日から3か月以内
相続には、以下の3つの方法があります。
① 単純承認
「プラスの財産」も「マイナスの財産」(※1)も無条件ですべて相続する方法
② 限定承認
「プラスの財産」の範囲内で「マイナスの財産」も相続する方法
③ 相続放棄
「プラスの財産」も「マイナスの財産」も相続しない方法
「限定承認」や「相続放棄」をする場合には、被相続人の死亡を知った日(※2)から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをします。
相続放棄をする例として、被相続人が多額の借金を抱えており、明らかにマイナスの財産のほうがプラスの財産より多い場合が挙げられます。
(※1) 預貯金、不動産などを「プラスの財産」、借入金、未払金などを「マイナスの財産」と表記しています。
(※2)「被相続人の死亡を知った日」とは、通常、被相続人が亡くなった日となります。
準確定申告
- 被相続人の死亡を知った日の翌日から4か月以内
被相続人につき、「亡くなった年の1月1日から亡くなった日」までに一定の所得がある場合には、税務署に準確定申告書(※3)を提出し、所得税(※4)を納付しなければなりません。
また、被相続人が1月1日から3月15日の間になくなった場合などで、前年分に一定の所得があり、かつ、前年分の確定申告書を提出しないで亡くなったときは、前年分の準確定申告書も提出し、納付しなければなりません。
準確定申告書の提出期限・納期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から4か月以内となっています。
(※3) 準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得について、相続人が代わりに行う確定申告のことです。準確定申告書を提出することで、税金が戻ってくる「還付」になることもあります。
(※4)令和19年までは所得税に「復興特別所得税(所得税額 × 2.1%)」が加算されます。
相続税の申告・納付を行う
- 被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内
相続税がかかる場合や、相続税が少なくなる特例を使う場合などは、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告書を税務署に提出し、かつ、相続税を納付しなければなりません。
その他の手続き
上記以外の手続等をいくつか挙げます。
・遺言書の有無の確認
・被相続人の財産・債務の確定
・遺産分割協議および遺産分割協議書の作成
・被相続人が生命保険に入っていた場合にはその請求
・高額医療費の申請
・健康保険の資格喪失の手続
・年金の受給停止手続き
・公共料金の名義変更
・土地建物を相続した場合には登記申請
相続税の申告・納付については、被相続人が亡くなられてから10か月以内に行います。亡くなられてからしばらくの間は葬儀などがあり、財産・債務の確定や相続人間での遺産分割の話し合いなどをすることは難しいでしょう。
一段落してから相続税の申告の準備を進めることになりますが、各種手続きや相続人間での話し合いは思った以上に時間がかかるものです。そのため、場合によっては各専門家を交えて早めの対応をしていくのが望ましいです。
次に、相続財産がどの程度あると相続税がかかる可能性があるのか見ていきます。
相続税の計算方法
相続財産がどの程度あると相続税がかかるのか(相続税の基礎控除)
相続が発生してもすべての人に相続税がかかるわけではありません。一定の非課税枠があり、この範囲内の相続財産であれば相続税はかかりません。
この非課税枠のことを「基礎控除額」といいます。基礎控除額は法定相続人の数が多いほど増える仕組みとなっています。法定相続人についてはこの後にご説明します。
基礎控除額は、以下の①と②の金額の合計額となります。
① 3,000万円
② 600万円 × 法定相続人の数
例えば、家族構成が父、母、長男、長女の場合を考えてみましょう。

この場合に父が亡くなり法定相続人が母、長男、長女のときの基礎控除額は以下のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
したがって、母、長男、長女が財産を相続し、その財産の合計額(※)が4,800万円以下ならば相続税はかからず、相続税の申告の必要もありません。
財産の合計額からは、被相続人の債務(借入金や未払金など)を控除することができます。ただし注意点として、債務控除は各相続人が取得した財産の範囲でしかできません。
(具体例)
長男:3,000万円の財産と、5,000万円の債務を相続
3,000万円 - 5,000万円 = △ 2,000万円 ←この部分を他の相続人の財産から控除することはできません
※ 財産の合計額とは、相続や遺贈によって取得した財産及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の価額の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算します)をいいます。
法定相続人
「法定相続人の数」で基礎控除額が変わります。法定相続人とは民法で定められた相続人のことをいいます。
法定相続人となる人は次のとおりです。

・配偶者
… 常に法定相続人になります。
・子(第1順位)
… 常に法定相続人になります。
すなわち、配偶者と子がいれば両者とも法定相続人になります。
・父母や祖父母(第2順位)
… 子がいない場合に、子に代わって法定相続人となります。第2順位の中での順番として、まず父母が法定相続人になります。父母がいない場合は祖父母が法定相続人になります。祖父母がいない場合は曾祖父母というように、上の世代に移っていきます。
・兄弟姉妹(第3順位)
… 子(第1順位)や父母等(第2順位)がいない場合には、兄弟姉妹が法定相続人となります。
※ 第1順位から第3順位までの法定相続人がいない場合は、「配偶者のみ」が法定相続人になります。
イメージとして、子がいれば、父母や兄弟姉妹は法定相続人になりません。子がいない場合に、法定相続人の地位が父母や兄弟姉妹に移っていくことになります。
代襲相続人
【子が代襲相続人となる場合】

第1順位の「子」が相続発生前に亡くなっている場合で、その子に子(被相続人から見れば孫にあたります。以下「孫」といいます)がいるときは、孫が法定相続人となります。その孫も亡くなっているときは、更にその下の世代へと、法定相続人の地位が移っていきます。このことを代襲相続といいます。また、亡くなった者に代わって相続人となる者を代襲相続人といいます。
被相続人の子が亡くなっていて、代襲相続人がいる場合は、親(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)に法定相続人の地位は移りません。
【兄弟姉妹が代襲相続人となる場合】

上記の例は、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人となる場合で、その兄弟姉妹が既に亡くなっているときです。
第3順位の「兄弟姉妹」にも、同様に代襲相続の制度があります。上記の【子が代襲相続人となる場合】と異なる点として、兄弟姉妹の代襲相続は、その兄弟姉妹の子(被相続人から見れば甥・姪にあたります)までです。
兄弟姉妹とその子が亡くなっている場合で、更にその下の世代がいたとしても、その下の世代には代襲相続人の地位は移りません。
養子がいる場合
養子がいる場合、養子は「子」として取り扱われるため法定相続人に該当します。
上記の「基礎控除額」の項目で、法定相続人の数が多いほど、相続税の非課税枠である基礎控除額が増えるという説明をしました。具体的には「600万円 × 法定相続人の数」という算式です。
そのため、相続税の節税目的での養子縁組を防止するために、基礎控除額の計算上、法定相続人の数に含める養子の人数を制限しています。
① 被相続人に実子がいる場合
… 法定相続人の数に含める養子の数は1人まで
② 被相続人に実子がいない場合
… 法定相続人の数に含める養子の数は2人まで
ただし、実の親と血縁関係が断絶する「特別養子縁組」などの場合には、養子であっても実子として扱われます。したがって、上記の人数制限の対象にはなりません。
また、養子縁組をしたのが明らかに節税目的であると税務署に認定された場合は、養子がいても法定相続人の数に含めることができなくなりますので注意しましょう。
法定相続分
相続が発生した場合、相続財産の分け方の1つとして遺言に基づいて分ける方法があります。遺言は財産処分などについての故人の最後の意思表示であり、相続人は原則としてその内容に従う必要があります。
遺言書がない場合は「法定相続分」により分ける方法があります。法定相続分は民法に定められており、これは各相続人の相続割合の目安となるものです。法定相続分の割合は相続人の組み合わせで決められており、具体的には以下のとおりです。
【相続人の組み合わせ】
① 配偶者と子(第1順位)の場合
それぞれ2分の1ずつ。子が2人以上の場合は、2分の1を子の人数で均等に分ける。
② 配偶者と父母(第2順位 ※5)の場合
配偶者 3分の2、父母 3分の1。父母が2人以上の場合は、3分の1を父母で均等に分ける。
③ 配偶者と兄弟姉妹(第3順位)の場合
配偶者 4分の3、兄弟姉妹 4分の1 。兄弟姉妹が2人以上の場合は、4分の1を兄弟姉妹の人数で均等に分ける。
このように民法で法定相続分を定めていますが、相続人間で法定相続分と異なる遺産分割協議をすることもできます。
(※5)父母や祖父母などの被相続人の直系尊属が第2順位となります。相続開始時に父母がいれば父母、既に亡くなっている場合は祖父母が第2順位になります。このように、法定相続人の地位が上の世代に上がっていきます。
遺留分
遺言書を作成することにより、誰にどの財産をどのように残すのか生前に決めることができます。極端な例では、夫と妻の仲が良くない場合に、子に相続財産をすべて渡すという遺言書も作成できるわけです。妻にとっては、もしそのような遺言が実行されてしまうと、今後の生活に支障をきたす可能性があります。
そのため、法定相続人には最低限の相続分が保障されており、このことを「遺留分」といいます。
遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1となります。例えば「父」が亡くなり、法定相続人が「母」「長男」「長女」の場合の遺留分は以下のとおりです。

法定相続分
・母 1/2
・長男 1/2 × 1/2 = 1/4
・長女 1/2 × 1/2 = 1/4
遺留分
・母 1/2 × 1/2 = 1/4
・長男 1/4 × 1/2 = 1/8
・長女 1/4 × 1/2 = 1/8
例外として、法定相続人が父母や祖父母(第2順位)のみの場合の遺留分は3分の1となります。例えば「子」が亡くなり、「母」のみが法定相続人の場合の遺留分は以下のとおりです。
法定相続分
・母 1/1
遺留分
・母 1/1 × 1/3 = 1/3
相続税額の計算の具体例
これまでに「相続税の基礎控除額」「法定相続人」「法定相続分」などを見てきました。もし相続税がかかる場合、どのくらいの納税額になるのか具体例を見ていきます。
相続税の計算方法は複雑です。ここでは相続税の計算につき、あくまで簡便的な説明に留めておきます。
【前提】

・母、長男、二男、長女の4人家族
・父は12年前に既に亡くなっている
・今回、母が亡くなり相続が開始した
・法定相続人は長男、二男、長女の3人
・母の財産は預貯金 1億2千万円のみ
・母の債務はなかった
・長男が5,000万円、二男が4,000万円、長女が3,000万円を相続した
計算方法
① 相続人全員の財産を合計する
長男 5,000万円 + 二男 4,000万円 + 長女 3,000万円 = 1億2千万円
② 基礎控除額を計算する
3,000万円 + 600万円 × 3人(法定相続人の数)= 4,800万円
③ 財産の合計額から基礎控除額を控除する
1億2千万円 - 4,800万円 = 7,200万円
④ 各法定相続人が上記の7,200万円を法定相続分に従って取得したものとします。今回は子が3人なので、それぞれの法定相続分は3分の1となります。
7,200万円 × 1/3 = 2,400万円
⑤ 各法定相続人が2,400万円ずつ取得したものとして、相続税の総額を相続税率表にあてはめて計算します。
長男 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
二男 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
長女 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
⇒ 相続税の総額は930万円
(相続税率表)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(出典:国税庁ホームページ)
⑥ 相続税の総額 930万円を取得した財産の価額に応じて割り振り、相続人ごとの税額を計算します。
長男 930万円 × 5,000万円/1億2,000万円 = 3,875,000円
二男 930万円 × 4,000万円/1億2,000万円 = 3,100,000円
長女 930万円 × 3,000万円/1億2,000万円 = 2,325,000円
それぞれ金額が各相続人の相続税の納付額になります。
【当事務所へのご依頼・お問合わせ】
「相続の開始から相続税申告書の提出までの主な手続き」と 「相続税の計算方法」ついて解説しました。
相続税がかかるか否かは「財産の合計額」と「基礎控除額」が計算できれば、おおよその判断ができると思います。
ただし被相続人の「財産の合計額」を算出するには、それぞれの財産につき相続税法上の財産の価額を計算する必要があります。また、相続税には納税者に有利な特例があり、特例を適用すれば相続税がかからなくなることもあります。
もし税理士に任せたい場合には、当事務所でも相続税・贈与税のご相談や申告を承っております。
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