この記事について
「法人成り ①」から「法人成り ⑨」までをまとめ、加筆したものを2020年12月10日に掲載しました。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
個人事業のときに適用できるものとして「青色事業専従者給与」があります。これは、青色申告者である個人事業主が生計を一にしている配偶者や親族(以下「配偶者等」といいます)に給与を支払うときの取り扱いとなります。
個人事業のときに配偶者等に給与を支払う場合は、税務署に届出書を提出するなどの一定の要件を満たさなければその給与の額を必要経費にすることができません。
いっぽう法人成りした場合には、配偶者等に支給する給与を損金(※)にするのに届出書を提出する必要はなくなります。法人成りした場合には、配偶者等に支払う給与や役員報酬が労務の対価や職務の対価として相当の金額であれば、原則として損金に算入することができます。
それでは「青色事業専従者給与」について詳しく見ていきます。
まずは国税庁のホームページで概要を確認します。
(※) 「損金」とは法人税法の用語です。「損金」は「費用」とほぼ同じ意味ですが、一部異なる取り扱いもあります。ちなみに法人税を計算する際の所得は、以下のように計算されます。
(計算式) 所得 = 益金 - 損金
。
青色事業専従者給与と事業専従者控除の概要
1 青色事業専従者給与と事業専従者控除の概要
生計を一にしている配偶者その他の親族が納税者の経営する事業に従事している場合、納税者がこれらの人に給与を支払うことがあります。これらの給与は原則として必要経費にはなりませんが、次のような特別の取扱いが認められています。
(1) 青色申告者の場合
一定の要件の下に実際に支払った給与の額を必要経費とする青色事業専従者給与の特例(2) 白色申告者の場合
事業に専ら従事する家族従業員の数、配偶者かその他の親族かの別、所得金額に応じて計算される金額を必要経費とみなす事業専従者控除の特例(注) 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人又は白色申告者の事業専従者である人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。
(出典:国税庁ホームページ)
まず、個人事業主が配偶者等に給与を支払った場合には、その給与は原則として必要経費にできません。
これには例外があり、青色申告者の場合は、一定の要件のもと実際に支払った給与の額を必要経費にできる「青色事業専従者給与の特例」があります。
最後に、青色事業専従者として給与の支払いを受ける人は「控除対象配偶者」や「扶養親族」になれないことが説明されています。
青色事業専従者給与に該当するための要件
青色事業専従者給与に該当するための要件は(1)から(4)まであります。(1)から順に見ていきましょう。
要件 (1)
(1) 青色事業専従者に支払われた給与であること。
青色事業専従者とは、次の要件のいずれにも該当する人をいいます。
イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
(出典:国税庁ホームページ)
まずは、青色事業専従者に支払われた給与であることが説明されています。続いて、青色事業専従者に該当するための要件が挙げられています。
イ 青色申告者(個人事業主)と生計を一にする配偶者や親族であること
ロ 給与を受ける者が、12月31日時点で15歳以上であること
ハ 原則として、1年のうち6月を超える期間その事業に専ら従事したこと(注1)
ポイントは「ハ」でしょう。事業に専ら従事していないといけないため、配偶者がその事業以外に、会社員としてフルタイムで働いている場合などは、その配偶者はハの要件を満たすのが難しくなります。
(注1)一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間、その事業に従事すればいいことになっています。
要件 (2)
(2)「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
提出期限は、青色事業専従者給与額を算入しようとする年の3月15日(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることとなった場合には、その開始した日や専従者がいることとなった日から2か月以内)までです。
この届出書には、青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与の金額、支給期などを記載することになっています。
また、専従者が増える場合や、給与を増額する場合など、届出の内容を変更するためには、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく納税地の所轄税務署長に提出していること。
(出典:国税庁ホームページ)
(2)では、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければならないことが説明されています。
次に、提出期限についての説明があり、提出期限は次のとおりです。
・青色事業専従者給与を必要経費にしようとする年の3月15日まで
・その年の1月16日以後「新たに事業を開始した場合」
→ その開始した日から2か月以内
・その年の1月16日以後「新たに専従者がいることとなった場合」
→ 専従者がいることとなった日から2か月以内
最後に、次の場合には「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を税務署に提出しなければならないことが説明されています。
・専従者が増える場合
・給与を増額する場合など
要件 (3)
(3) 届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること。
(出典:国税庁ホームページ)
(3)では、届出書に記載したとおりの方法で専従者に給与の支払いをし、かつ、記載した金額の範囲内の給与額でなければならないことが説明されています。
要件 (4)
(4) 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。
なお、過大とされる部分は必要経費とはなりません。
(出典:国税庁ホームページ)
(4)では、必要経費に計上できるのは、あくまで労働の対価として妥当であると認められる金額であることが説明されています。たとえば、簡単な作業しかしていないのに、年間1,000万円の給与を支払った場合には、税務調査があった際に指摘される可能性が高いと思われます。
なお国税庁が発表している、平成30年分の青色事業専従者1人当たりの平均給与額は210万円となっています。
今日のポイントをまとめます。
② 法人成りした場合には、生計を一にする配偶者や親族に支払う給与を損金にするのに、税務署への届出は要件ではない。
現在、個人事業を営んでいて青色事業専従者給与の規定を適用していない場合には、法人成りするまでの間、配偶者等を専従者にしてその給与を必要経費にできないか検討するのも良いでしょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年11月18日)