この記事について
「法人成り ①」から「法人成り ⑨」までをまとめ、加筆したものを2020年12月10日に掲載しました。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
法人成りの第3回目です。
個人事業のときは事業から生じる利益については事業所得として申告します。事業所得は、「売上などの収入金額」から「売上原価や費用などの必要経費」を控除して計算します。青色申告をしている場合には、更に「青色申告特別控除額(最高 65万円)」を控除できます。
一方、法人成りした場合には給与(役員報酬)を受け取ることになるため、給与所得となります。給与所得は、「給与収入」から「給与所得控除額(55万円から195万円)」を控除して計算します。
この「事業所得」と「給与所得」の計算方法の違いから、法人成りをして給与を受け取る場合に、節税効果が見込まれることになります。
給与所得の計算方法
給与所得の計算式は次のようになります。
(計算式)給与収入 - 給与所得控除額 = 給与所得
「給与収入」とは、税金(源泉所得税、住民税)や社会保険料が控除される前の額面の金額をいいます。
このように、給与所得を計算する際に「給与所得控除額」というものを控除しています。
給与所得控除とは
給与所得者(会社員など)も、給与を得るためにかかった費用があります。例えば、スーツや事務用品などです。ただし、給与収入から「実際にかかった費用の額」を控除することは認められていません(※1)。代わりに概算経費として「給与所得控除」が認められています。給与所得控除額の計算方法は定められており、同じ給与収入ならばすべての人が同じ給与所得控除額となります。
それでは、個人事業主が法人成りしてその法人の代表取締役として役員報酬を受け取る場合はどうなるのでしょうか?役員報酬も給与所得となるため「給与所得控除」の適用があります。
給与所得控除の額は、給与収入の額が増えるほど増加し、最低55万円から最高195万円です。
(※1)給与所得者が一定の支出(研修費、図書費、衣服費など)をした場合には、支出した金額のうち一定額を給与収入から控除できる「特定支出控除」という制度があります
給与所得控除額の求め方
令和2年分の給与所得控除額の求め方は次の表のとおりです。
ちなみに令和2年分から給与所得控除額が改正されました。参考として、令和元年分の給与所得控除額も記載してあります。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
令和元年分 | 令和2年分 | |
1,625,000円以下 | 650,000円 | 550,000円 |
1,625,000円超 1,800,000円以下 | 収入金額×40% | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+180,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+540,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,000円超 8,500,000円以下 | 収入金額×10%+1,200,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,000円超 10,000,000円以下 | 1,950,000円(上限) | |
10,000,000円超 | 2,200,000円(上限) |
事業所得の場合
一方、個人事業主が事業所得を申告する場合には、個人事業主がその事業から給与を受け取るという考え方ではないため、給与所得控除はありません。代わりに青色申告特別控除がありますが、最高でも65万円です。
「事業所得」と「給与所得」のどちらが税金が少なくなるか
どちらの税金が少なくなるかは、役員報酬をいくら受け取るかなどによって変わってきます。ここでは、次の前提で所得税額の試算をしてみたいと思います。
事業所得の場合の所得税額
(前提)
・青色申告特別控除額は65万円
・所得控除は基礎控除 48万円のみ
(所得税額の計算)
① 事業所得の金額 700万円(青色申告特別控除前)
② 事業所得の金額 635万円(青色申告特別控除後)
③ ② - 基礎控除 48万円 = 587万円
④ ③の587万円に対する所得税額は74万6,500円(※2)
(※2) 所得税には復興特別所得税(所得税 × 2.1%)が加算されます。(以下同様)
給与所得の場合の所得税額
(前提)
・700万円を役員報酬として受け取った(上記1①の事業所得の金額と同額)
・所得控除は基礎控除 48万円のみ
(所得税額の計算)
① 給与収入(役員報酬)の金額 700万円
② ① - 給与所得控除額 180万円 = 520万円
③ ② - 基礎控除 48万円 = 472万円
④ ③の472万円に対する所得税額は51万6,500円
上記の比較
事業所得の場合の所得税額は74万6,500円であるのに対し、給与所得の場合の所得税額は51万6,500円となっています。したがって、このケースの場合は給与所得のほうが所得税額が23万円少なくなりました。
このように、個人事業から法人成りをした場合、個人事業主のときに事業所得として申告した場合と、法人成りをして役員報酬を受け取り給与所得となった場合では、給与所得で受け取ったほうが給与所得控除額の影響で、所得税の納税が少なくなることが多いです。
ただし、法人成りをした後に役員報酬をいくら受け取るかなどによって、法人税なども含めた全体的な納税額が変わってきます。法人成りを検討する場合は具体的な金額をベースに、税額の試算をしてみるといいでしょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年11月16日)