この記事について
「法人成り ①」から「法人成り ⑨」までをまとめ、加筆したものを2020年12月10日に掲載しました。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
法人成りして従業員が会社の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)に加入した場合、社会保険料の負担は「従業員」と「会社」の折半となります。そのため会社の負担がどのくらいなのか、その影響を理解しておきましょう。
また、法人成りをして、個人事業主がその会社の役員や従業員になった場合には、その個人事業主も会社の社会保険に加入することになります。
個人事業と法人の加入義務の違い
個人事業と法人では社会保険への加入義務の基準が異なっています。全国健康保険協会のホームページに加入義務の説明があるので見てみましょう。
適用事業所とは?
健康保険では、事業所を単位に適用されます。
健康保険の適用を受ける事業所を適用事業所といい、法律によって加入が義務づけられている強制適用事業所と、任意で加入する任意適用事業所の2種類があります。1.強制適用事業所
強制適用事業所は、次の(1)か(2)に該当する事業所(事務所を含む、以下同じ)で、法律により、事業主や従業員の意思に関係なく、健康保険・厚生年金保険への加入が定められています。(1)次の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所
a製造業 b土木建築業 c鉱業 d電気ガス事業 e運送業 f清掃業 g物品販売業 h金融保険業 i保管賃貸業 j媒介周旋業 k集金案内広告業 l教育研究調査業 m医療保健業 n通信報道業など(2)国又は法人の事業所
常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所
(出典:全国健康保険協会ホームページ)
全国健康保険協会のホームページに「健康保険」と「厚生年金保険」の両方の社会保険の加入について説明がされています。
「1. 強制適用事業所」により、個人事業と法人の社会保険の加入義務いについては次のようになります。
・個人事業 … 常時雇用している従業員が5人以上の場合には社会保険への加入義務があります。
・法人 … 従業員の人数にかかわらず社会保険への加入義務があります。そのため、従業員が代表取締役1名だけだとしても加入義務があります。
また一定の場合には、強制適用事業所に該当しなくても任意で社会保険に加入することができます。そのことが次の「2. 任意適用事業所」で説明されているので見てみましょう。
2.任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所とならない事業所で厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受け健康保険・厚生年金保険の適用となった事業所のことです。事業所で働く半数以上の人が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けると適用事業所になることができ、働いている人は全員〔被保険者から除外される人を除く〕が加入することになります。(任意適用事業所の場合、健康保険のみ・厚生年金保険のみのどちらか一つの制度のみ加入することもできます。)
適用事業所になると、保険給付や保険料などは、強制適用事業所と同じ扱いになります。
また、被保険者の4分の3以上の人が適用事業所の脱退に同意した場合には、事業主が申請して厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受け適用事業所を脱退することができます。
(出典:全国健康保険協会ホームページ)
上記より「任意適用事業所」になるための要件は次のとおりです。
・適用事業所となることにつき、事業所で働く半数以上の人の同意があること
・事業主が申請して厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けること
これにより、「強制適用事業所」でなくても、社会保険に加入することができます。
このように個人事業の場合、常時雇用している従業員が5人未満のときは社会保険への加入義務はなく、加入しなければ従業員に対する社会保険料の会社負担はありません。しかし、この個人事業が法人成りすると社会保険の加入義務が生じてきます。社会保険に加入した場合、社会保険料の半分は会社負担となります。
それでは会社がどのくらいの金額を負担することになるのか見てみましょう。
社会保険料の保険料率
(東京都の場合)
健康保険料(※) | 11.66% |
厚生年金保険料 | 18.30% |
合計 | 29.96% |
会社負担分(合計×1/2) | 14.98% |
(※)介護保険第2号被保険者に該当する場合。該当しない場合は9.87%。
(※)介護保険第2号被保険者には、40歳から64歳までの方が該当します。
社会保険料の計算式は次のとおりです。
(計算式)標準報酬月額 × 保険料率 = 保険料
上記のように標準報酬月額に保険料率を乗じますが、概算でよければ「税金等控除前の給与の額」に「保険料率」を乗じればおおまかな保険料の額が出ます。
上記の29.96%は、「従業員負担分」と「会社負担分」の合計額となるので、会社負担分を計算するときは14.98%を乗じましょう。
また、保険料率は変更になる場合がありますので注意しましょう。
今日のポイントをまとめます。
① 個人事業のときに従業員が社会保険に加入していなかった場合には、法人成りすることにより加入義務が生じ、会社負担分の経費が増える可能性がある
② 現在の東京都の社会保険料率(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)は、従業員負担分と会社負担分を合わせて29.96%となっている。
社会保険に加入した場合に、会社が社会保険料の2分の1を支払うのは、負担が大きいものです。法人成りする場合には、忘れずに社会保険加入の影響を検討するようにしましょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年11月13日)