この記事について
「法人の節税対策 その1」と「その6」までをまとめ、加筆したものを2020年12月6日に掲載しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
法人の節税対策
法人税の節税対策の4回目となりました。今回は決算賞与についてです。決算が近くなると当期1年間の業績がおおよそ分かってきます。そのときに、会社の業績がいい場合は従業員の貢献をねぎらうため、また労働意欲を高めるためにも決算賞与を支給したいと思うときがあります。この決算賞与は期末時点で未払いであっても、一定の要件を満たせば、その決算の損金にすることができます 。
国税庁のホームページで「使用人賞与の損金算入時期」として紹介されていますので、見ていきましょう。
使用人賞与の損金算入時期の概要
法人が使用人に対して支給する賞与の額は、次に掲げる賞与の区分に応じ、それぞれ次の事業年度の損金の額に算入します。なお、使用人に対して支給する賞与の額には、使用人兼務役員に対して支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。
(国税庁ホームページより引用)
従業員のことをここでは「使用人」と表現しています。使用人に対して賞与を支給した場合には、賞与の区分によって、損金に算入する時期が異なることが書かれています。
また、「なお、…」以降では、使用人兼務役員に対する賞与のことが書かれています。使用人兼務役員とは、簡潔に説明すると次のすべての要件を満たす者のことをいいます。
・役員である
・部長、課長などの職制上の地位を有している
・常時使用人として職務に従事する一定の者である
使用人兼務役員に対する賞与のうち、使用人の職務に対応する部分の賞与は、「使用人に対する賞与」と同様の取り扱いであることが書かれています。
賞与の区分は、(1)から(3)の3つに分かれています。(1)から順に見ていきましょう。
使用人賞与の損金算入時期 (1)
(1) 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限ります。)
その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度
(国税庁ホームページより引用)
これは決算賞与の取り扱いではなく、就業規則などで賞与の支給予定日が定められている場合に、いつ損金にできるのかが説明されています。これによると、例えば、支給予定日が到来している場合で資金繰りの都合で支給予定日に賞与の支払いができなかった場合でも、未払いとして損金経理すれば、次のいずれか遅い日の損金にできます。
・支給予定日
・使用人に賞与の支給額を通知した日
資金繰りの都合で支給が遅れても、支給予定日などに損金にできることを覚えておくと良いでしょう。
次は(2)です。
使用人賞与の損金算入時期 (2)
(2) 次に掲げる要件の全てを満たす賞与
使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
(注1) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
(注2) 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。
ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
(国税庁ホームページより引用)
これが「決算賞与」の損金算入時期の取り扱いになります 。上記の要件をすべて満たせば、「使用人にその支給額の通知をした日」において損金にすることができます。つまり、決算前に通知をすれば、その決算の損金にできることになります。実際の決算賞与の支払いは、翌期になっても構いません。
要件を順に見ていきましょう。
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
(国税庁ホームページより引用)
この部分で、決算賞与の支給額について「一人ずつ」かつ「すべての使用人」に通知をしなければならないことが書かれています。
「イ」には注が2つあり、まずは(注1)です。
(注1) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
(国税庁ホームページより引用)
まず、支給の通知をした使用人には、支給日までに退職していたとしても支給をしなければなりません。
更に、例えば給与規定に「支給日に在職していない従業員には賞与を支給しない」などの規定があるときは、そもそも要件を満たさない可能性がでてきます。この場合に決算賞与を未払計上した決算の損金にしたいときは、給与規定の改定などが必要になると思われます。
次は(注2)です。
(注2) 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。
(国税庁ホームページより引用)
この注は「正社員」と「パートタイムの従業員(※)」が在籍している場合について説明をしています。
つまり、正社員には未払賞与としてその決算の損金に計上し、パートタイムの従業員には、未払賞与を計上せずに翌期の実際の支給の際に損金にすることも、その他の要件を満たしていれば認められることになります。
(※)雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者は除かれています
次は、ロとハを一緒に見てみましょう。
ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
(国税庁ホームページより引用)
ロでは、期首から1か月以内に、使用人に通知したとおりに賞与を支給しなければならない旨が書かれています。
ハでは、従業員に通知をした日の属する事業年度(決算)で未払賞与として損金経理をすることが要件であることが書かれています。
見てきたように、決算賞与をその決算の損金にするためには要件が複数ありますので、主なポイントをまとめてみます。
① 期末までに、賞与の支給額を、支給を受けるすべての使用人に通知すること
② その決算において、未払賞与として損金計上すること
③ 期首から1か月以内に、通知したすべての使用人に、通知したとおりに支給すること
使用人賞与の損金算入時期 (3)
(3) 上記(1)及び(2)に掲げる賞与以外の賞与
その支払をした日の属する事業年度
(国税庁ホームページより引用)
念のため(3)も確認しておきましょう。ここでは、(1)及び(2)に該当しなければ、賞与の支払いをしたときに損金計上できることが説明されています。
今回は決算賞与について解説しました。決算賞与を従業員に支給するのは、従業員の貢献をねぎらうため、また労働意欲を高めるといった目的がありますが、節税対策として利用できることも覚えておくと良いでしょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年11月6日)