この記事について
「法人の節税対策 その1」と「その6」までをまとめ、加筆したものを2020年12月6日に掲載しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
法人の節税対策
今回から複数回にわたって、法人の節税についての解説をしていきます。
法人であれば、通常、年1回決算をし、申告・納税をすることになります。そして申告・納税するのは法人税だけではありません。東京都の場合、主に申告・納税する税金の種類は次のようになります。
・法人税
・法人都民税
・法人事業税
・地方法人特別税
・消費税など
一年の経営の結果として利益が出たとします。しかし、その全額を会社の自由に使えるわけではなく、まず税金を支払わなくてはいけません。今後、役員報酬を増額したい、設備投資を行いたい、銀行への返済の資金を残しておきたい、もしものときのために資金を残しておきたいなどの事情から、可能な限り税金の支払いは少なく済ませたいものです。架空の外注費などはもちろん認められませんが、税法で認められている範囲内で色々と節税対策ができる場合があります。
ここでは主に法人税の観点から、決算間際になって節税対策をしたい場合に、どのような対応が取れるか見ていきたいと思います。
短期前払費用の特例
費用を前払いした場合には、原則として、役務の提供を受けるまでは損金(※)にできません。しかしこれには特例が設けられており「短期前払費用」に該当すれば、役務の提供を受けていない部分についても損金にできます。
(※) 「損金」とは法人税法の用語です。「損金」は「費用」とほぼ同じ意味ですが、一部異なる取り扱いもあります。ちなみに法人税を計算する際の所得は、以下のように計算されます。
(計算式) 所得 = 益金 - 損金
前払費用
まずは通常の「前払費用」から、国税庁のホームページで確認してみます。
前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。
(国税庁ホームページより引用)
前段では、前払費用の定義について書かれています。前払費用とは次のものを言います。
・継続的役務の提供を受けるために支払った費用のうち、
・期末においてまだ役務の提供を受けていない部分
ここでの役務の提供とは、サービスの提供と考えて頂ければ結構です。例えば事務所の賃貸などです。
後段では、前払費用に該当する部分は資産計上し、役務の提供を受けたときに損金になることが示されています。
短期前払費用
次に「短期前払費用」について見てみましょう。
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。
(国税庁ホームページより引用)
前段の部分では、次の要件を満たせば、短期前払費用として支払った時点でその金額を損金にできることが示されています。「1にかかわらず」とあるのは、前述した「前払費用」のことです。
・「前払費用」であること
・支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
・支払った額を損金にすることを毎期継続していること
後段の部分では、短期前払費用にならない場合が書かれています。例えば、銀行から借入れをして、その資金で有価証券を購入し運用する場合など、収益と費用を対応させる必要があるものは、支払い時点で短期前払費用として損金にすることはできないことが書かれています。
また、役務の提供が対象のため、物の購入(資産の譲渡)は短期前払費用とならないことになります。例えば、毎月冊子が送付されるような年間購読料は、物の購入となるため、前払してもこの特例の適用は受けられないことになります。
具体例
次に、国税庁のホームページに具体例が掲載されていますので見てみましょう。
事例1:期間40年の土地賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う。
事例2:期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う。
事例3:期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借に係る賃料について、毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う。
事例4:期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。
事例5:期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。
(国税庁ホームページより引用)
このうち事例1から事例4までは短期前払費用として支払の時点でその全額を損金にすることができます。
一方事例5については、2月の時点で「4月~翌年3月」の家賃を支払っており、支払い時点から1年以内に役務の提供を受けていない部分があるため、短期前払費用の特例は受けられないことになります。
このことは、国税庁のホームページで次のように説明されています。
役務の受入れの開始前にその対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするようなものは、何らかの歯止めを置いた上で本通達の適用を認めることが相当と考えられます。
(国税庁ホームページより引用)
その他の注意点
その他の主な注意点は次のとおりです。
・契約書で月払いとなっているものを年払いしても、短期前払費用とはなりません。契約書などで、年払いすることにつきお互い合意することが必要となります。
・等質等量のサービスであること。具体的には上記に挙げた家賃などが対象となります。
最後に今日のポイントをまとめます。
② ただし、短期前払費用の特例を受けるためには要件があるため、すべての要件を満たしているかの確認が必要
今回は「短期前払費用」を解説しました。翌期12か月分の費用を当期の損金にすることができますので、上手に利用すれば節税効果も大きくなります。利益が出そうなときは、継続的に役務の提供を受けているものはないか確認してみましょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年11月2日)