役員報酬を支給する際の注意点 その1(定期同額給与)

役員報酬を支給する際の注意点 その1(定期同額給与)

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「役員報酬を支給する際の注意点 その1」と「その2」をまとめ、加筆したものを2020年12月5日に公開しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください。

役員報酬を支給する際の注意点

記事作成者:税理士 林 正和(東京都 板橋区) 公開日:2020年10月29日

法人の場合、利益が出たとしても、すぐには社長個人のお金にはなりません。役員報酬という形で会社から金銭の支給を受けることで、はじめて社長個人のお金となり自由に使うことができます。これは、法律上、会社と社長は別の人格であるためです。

また、社長が会社から好きなように役員報酬をもらってもいいかというと、そういうわけでもありません。なぜならば、税法の要件に合った支給をしないと、役員報酬が損金(※)にならず、それに対する税金がかかるためです。税法の要件に合った支給の一例として、「定期同額給与」があります。これは、毎月同額の役員報酬を支給すれば、その支給額を損金に算入できるという取り扱いです。なぜこのような取り扱いになっているかというと、役員報酬の額を増減させることによって、会社の利益調整をすることを防止するためです。

会社を経営していくにあたり、役員報酬についての規定の理解は避けて通れません。

ここでは税務上の観点から、役員報酬の取り扱いをできるだけ分かりやすく解説していきます。それでは早速見ていきましょう。

(※) 「損金」とは法人税法の用語です。「損金」と「費用」はほぼ一致しますが、一部異なる取り扱いもあります。ちなみに法人税を計算する際の所得は、以下のように計算されます。
(計算式) 所得 = 益金 - 損金

法人税法上の役員報酬の考え方

経営者としては会社に利益が多く出たときは、何か費用を計上して利益を減らし、税金も減らしたいと考えます。その場合に社長の役員報酬の支給に制限がないと、利益調整に使われてしまい国として困るわけです。

そのため、法人税法に役員報酬の支給についての要件が定められており、要件に合わない役員報酬の額については、損金にできないことになっています。例えば次のような支給をすると、支給をした役員報酬の一部が損金にならず、それに対する税金がかかる可能性があります。

・月によって役員報酬の額が異なる
・今月は儲かったので先月よりも多く役員報酬を支給する
・決算にあたり想定よりも黒字の額が大きくなりそうなので、決算前に役員報酬を増額する
・今期は赤字になりそうなので、期の途中から役員報酬の額を減額する

それでは役員報酬の額を全額損金とするには、どうしたらいいのでしょうか?そのためには、次のいずれかに該当する必要があります。

・定期同額給与
・事前確定届出給与
・業績連動給与

まずは「定期同額給与」を見ていきましょう。

定期同額給与の要件

定期同額給与とは、端的に言えば毎月の役員報酬の額が同額であることをいいます。ただし、役員報酬の額の変更ができないわけではありません。次の3つの時点で、変更することが認められています。

・期首から3か月以内の改定
・職制上の地位の変更などがあった場合などの改定(臨時改定事由)
・経営状況が悪化した場合などの改定(業績悪化改定事由)

最初に「定期同額給与」がどのようなものか、国税庁のホームページを見てみましょう。

定期同額給与の内容

法人が役員に対して支給する給与(注)の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。
ただし、次に掲げる給与のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。

(国税庁のホームページより引用)

ここでは、役員報酬が「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当しなければ、損金にできないことが書かれています。

また、これらに該当しても不相当に高額な部分は損金の額に算入されないことが説明されています。この「不相当に高額な部分」については後ほど見ていきます。

次の部分を見てみましょう。

定期同額給与とは次に掲げる給与です。

その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額(注)を控除した金額が同額であるもの

(国税庁のホームページより引用)

「定期同額給与」とは、どのようなものなのかが書かれています。通常、役員報酬の支給はひと月に1回だと思いますので、あとは毎月の支給が同額であれば、定期同額給与の要件を満たします。

期首から3か月以内の改定

役員報酬の額の改定が認められる場合として、次の文章が国税庁のホームページに書かれています。

イ その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けた場合にはその指定に係る月数に2を加えた月数)を経過する日(以下「3月経過日等」といいます。)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定で、その改訂が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改訂の時期まで)にされる定期給与の額の改定

(国税庁のホームページより引用)

括弧の内容を削除すると次のようになります。

・その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされる定期給与の額の改定

このように、事業年度開始日の日から3か月以内の支給額の改定が認めれています。役員報酬の額を定時株主総会で決議している場合は、決算月が3月だと、定時株主総会が開催される5月、6月に役員報酬の額を改定することが多いです。

役員報酬の額の改定は、これ以外にもいくつか認めれていますので以下にご紹介します。

臨時改定事由

役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情があった場合には、役員報酬の額の改定が認められています。

① 役員の職制上の地位の変更
  取締役が代表取締役に昇格した場合などです。

② 役員の職務の内容の重大な変更
  役員が病気や事故などで予定していた職務ができなくなった場合などです。

業績悪化改定事由

法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由があった場合には、役員報酬の額の改定が認めれれています。

ただし、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかった場合などは、この事由に該当しないとされています。

継続的に供与される経済的利益

役員報酬は必ずしも金銭でなくても構いません。

継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

(国税庁のホームページより引用)

例えば、法人が負担する生命保険契約の保険料で、役員を被保険者および保険金受取人とするものなどがあります。この経済的利益が毎月同額であれば、定期同額給与に該当します。

不相当に高額な部分の金額

一番最初に抜粋した国税庁のホームページの中に「不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません」という文言がありました。もう一度見てみましょう。

法人が役員に対して支給する給与(注)の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。
ただし、次に掲げる給与のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。

(国税庁のホームページより引用)

支給した役員報酬の額が不相当に高額だと判断されてしまうと、その部分は損金にできなくなってしまいます。不相当に高額だと判断される基準は次の2通りがあります。

形式基準

「株主総会などの決議により決定された支給額」を超える部分の金額は損金にできません。

実質基準

「役員の職務内容、会社の収益や同業他社の役員報酬の額に照らし妥当であると認められる金額」を超える部分の金額は、損金にできません。

役員報酬が未払いとなった場合

毎月の役員報酬の発生額は同額でも、資金繰りの都合で支給が遅れる場合があると思います。この場合に、その未払いが一時的なものであり、帳簿に未払金として経理し、その未払金を短期的に支払えば、特に問題になることはないと思われます。

最後に、今日のポイントをまとめます。

① 役員報酬の額を全額損金とするには、次のいずれかに該当しなければならない
 ・定期同額給与
 ・事前確定届出給与
 ・業績連動給与
② 定期同額給与とは、例えば毎月の役員報酬の額が同額である給与である
③ ただし定期同額給与に該当しても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入できない

明日は、「事前確定届出給与」を見ていきたいと思います。

それではまた次回よろしくお願いします。

(公開日:2020年10月29日)