相続税の基礎知識 その3 (法定相続分、税額計算)

相続税の基礎知識 その3 (法定相続分、税額計算)

この記事について

「相続税の基礎知識 その1」から「その3」までをまとめ、加筆したものを2020年12月2日に掲載しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください

「相続税申告までの流れ」と「相続税の計算方法」

記事作成者:税理士 林 正和(東京都 板橋区) 公開日:2020年10月16日

昨日は、主に相続税の基礎控除と法定相続人について確認しました。最終日の今日は以下の3点を見ていきます。

・法定相続分
・遺留分
・相続税額の計算

それでは早速見ていきましょう。

法定相続分

相続が発生した場合、相続財産はどのように分けるのでしょうか?相続財産の分け方の1つとして遺言に基づいて分ける方法があります。遺言は財産処分などについての故人の最後の意思表示であり、相続人は原則としてその内容に従う必要があります。

遺言書がない場合は「法定相続分」により分ける方法があります。法定相続分は民法に定められており、これは各相続人の相続割合の目安となるものです。法定相続分の割合は相続人の組み合わせで決められており、具体的には以下のとおりです。

(相続人の組み合わせ)

・配偶者と子(第1順位)の場合
 … それぞれ2分の1ずつ。子が2人以上の場合は、2分の1を子の人数で均等に分ける。

・配偶者と父母(第2順位 ※)の場合
 … 配偶者 3分の2、父母 3分の1。父母が2人以上の場合は、3分の1を父母で均等に分ける。

・配偶者と兄弟姉妹(第3順位)の場合
 … 配偶者 4分の3、兄弟姉妹 4分の1 。兄弟姉妹が2人以上の場合は、4分の1を兄弟姉妹の人数で均等に分ける。

参考として、代襲相続人がいる場合はもとの相続人と同じ割合となります。

このように民法で法定相続分を定めていますが、相続人間で法定相続分と異なる遺産分割協議をすることもできます。

(※)父母や祖父母などの被相続人の直系尊属が第2順位となります。相続開始時に父母がいれば父母、いない場合は祖父母が第2順位になります。このように、法定相続人の地位が上の世代に上がっていきます。

遺留分

遺言書を作成することにより、誰にどの財産をどのように残すのか生前に決めることができます。極端な例では、夫と妻の仲が良くない場合に、子に相続財産をすべて渡すという遺言書も作成できるわけです。妻にとっては、もしそのような遺言が実行されてしまうと、今後の生活に支障をきたす可能性があります。そのため、法定相続人には最低限の相続分が保障されており、このことを「遺留分」といいます

遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1となります。例えば「父」が亡くなり、法定相続人が「母」「長男」「長女」の場合の遺留分は以下のとおりです。

 法定相続分

・母  1/2

・長男 1/2 × 1/2 = 1/4

・長女 1/2 × 1/2 = 1/4

 遺留分

・母  1/2 × 1/2 = 1/4

・長男 1/4 × 1/2 = 1/8

・長女 1/4 × 1/2 = 1/8

例外として、法定相続人が父母や祖父母(第2順位)のみの場合の遺留分は3分の1となります。例えば「子」が亡くなり、「母」のみが法定相続人の場合の遺留分は以下のとおりです。

 法定相続分

・母 1/1

 遺留分

・母 1/1 × 1/3 = 1/3

相続税額の計算

これまでに「相続税の基礎控除額」「法定相続人」「法定相続分」などを見てきましたが、相続税がかかる場合どのくらいの納税額になるのか気になると思います。
相続税の計算方法は複雑です。ここでは相続税の計算につき、あくまで簡便的な説明に留めておきます。

前提

・母、長男、次男、長女の4人家族
・父は12年前に亡くなった。今回、母が亡くなり相続が開始した
・法定相続人は長男、次男、長女の3人
・母の財産は預貯金 1億2千万円のみ
・母の債務はなかった
・長男が5,000万円、次男が4,000万円、長女が3,000万円を相続した

計算方法

① 相続人全員の財産を合計する
  長男 5,000万円 + 次男 4,000万円 + 長女 3,000万円 = 1億2千万円

② 基礎控除額を計算する
  3,000万円 + 600万円 × 3人(法定相続人の数)= 4,800万円

③ 財産の合計額から基礎控除額を控除する
  1億2千万円 - 4,800万円 = 7,200万円

④ 各法定相続人が上記の7,200万円を法定相続分に従って取得したものとします。今回は子が3人なので、それぞれの法定相続分は3分の1となります。
  7,200万円 × 1/3 = 2,400万円

⑤ 各法定相続人が2,400万円ずつ取得したものとして、相続税の総額を相続税率表にあてはめて計算します。
  長男 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
  次男 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
  長女 2,400万円 × 15% - 50万円 = 310万円
  → 相続税の総額は930万円

(相続税率表)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

 

⑥ 相続税の総額 930万円を取得した財産の価額に応じて割り振り、相続人ごとの税額を計算します。
 長男 930万円 × 5,000万円/1億2,000万円 = 3,875,000円
 次男 930万円 × 4,000万円/1億2,000万円 = 3,100,000円
 長女 930万円 × 3,000万円/1億2,000万円 = 2,325,000円

 それぞれ金額が各相続人の相続税の納付額になります。今回の場合、多く財産を取得した相続人ほど、納税額が多くなっています。

  計算のポイントとしては、④と⑤の、各相続人が法定相続分で取得したものとして相続税の総額を計算するところです。できるだけ簡潔な説明をしたのですが、やっぱり複雑ですね。


今回は、3日間にわたって見てきた「相続税の基礎知識」の最終日となりました。「法定相続分」「遺留分」「相続税額の計算」を確認しましたが、特に相続税の計算は難しかったと思います。イメージだけでも掴んでおくと役に立つことがあるかも知れません。難しい項目には深入りせずに、分かるところから理解を深めていきましょう。

それではまた次回よろしくお願いします。

(公開日:2020年10月16日)