相続税の基礎知識 その2(基礎控除、法定相続人)

相続税の基礎知識 その2(基礎控除、法定相続人)

この記事について

「相続税の基礎知識 その1」から「その3」までをまとめ、加筆したものを2020年12月2日に掲載しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください。

「相続税申告までの流れ」と「相続税の計算方法」

記事作成者:税理士 林 正和(東京都 板橋区) 公開日:2020年10月15日

昨日は相続税の申告までの流れをおおまかに確認しました。今日は、相続財産がどの程度あると、相続税がかかる可能性があるのか見ていきたいと思います。

相続財産がどの程度あると相続税がかかるのか(相続税の基礎控除)

相続が発生してもすべての人に相続税がかかるわけではありません。一定の非課税枠があり、この範囲内の相続財産でれば相続税はかかりません。この非課税枠のことを「基礎控除額」といいます 。基礎控除額は法定相続人の数が多いほど、増える仕組みとなっています。法定相続人については、この後にご説明します。

基礎控除額は、以下の①と②の金額の合計額となります。

① 3,000万円
② 600万円 × 法定相続人の数

例えば、家族構成が父、母、長男、長女の場合を考えてみましょう。この場合に父が亡くなり法定相続人が母、長男、長女のときの基礎控除額は以下のとおりです。

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

したがって、母、長男、長女が財産を相続し、その財産の合計額(※)が4,800万円以下ならば相続税はかからず、相続税の申告の必要もありません。

財産の合計額からは、被相続人の債務(借入金や未払金など)を控除することができます。ただし注意点として、債務控除は各相続人が取得した財産の範囲でしかできません。

(具体例)
長男 3,000万円の財産と、5,000万円の債務を相続
3,000万円 - 5,000万円 = △ 2,000万円 ←この部分を他の相続人の財産から控除することはできません

※ 財産の合計額とは、相続や遺贈によって取得した財産及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の価額の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算します)をいいます。

法定相続人

上記のとおり「法定相続人」の数で基礎控除額が変わります。法定相続人とは民法で定められた相続人のことをいいます。法定相続人となる人は以下のとおりです。

・配偶者
  … 常に法定相続人になります。

・子(第1順位)
  … 常に法定相続人になります。
   すなわち、配偶者と子がいれば両者とも法定相続人になります。

・父母や祖父母(第2順位)
  … 子がいない場合に、子に代わって法定相続人となります。第2順位の中での順番として、まず父母が法定相続人になります。父母がいない場合は祖父母が法定相続人になります。祖父母がいない場合は曾祖父母というように、上の世代に移っていきます。

・兄弟姉妹(第3順位)
  … 子(第1順位)や父母等(第2順位)がいない場合には、兄弟姉妹が法定相続人となります。

※ 第1順位から第3順位までの法定相続人がいない場合は、「配偶者のみ」が法定相続人になります。

イメージとして、子がいれば、父母や兄弟姉妹は法定相続人になりません。子がいない場合に、法定相続人の地位が父母や兄弟姉妹に移っていくことになります。

代襲相続人

第1順位の「子」が相続発生前に亡くなっている場合で、その子に子(被相続人から見れば孫にあたります。以下「孫」といいます)がいるときは、孫が法定相続人となります。その孫も亡くなっているときは、更にその下の世代へと、法定相続人の地位が移っていきます。このことを代襲相続といいます。また、亡くなった者に代わって相続人となる者を代襲相続人といいます

被相続人の子が亡くなっていて、代襲相続人がいる場合は、親(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)に、法定相続人の地位は移りません。

また、第3順位の「兄弟姉妹」にも、同様に代襲相続の制度があります。上記の子の場合と異なる点として、兄弟姉妹の代襲相続は、その兄弟姉妹の子(被相続人から見れば甥・姪にあたります)までです。兄弟姉妹とその子が亡くなっている場合で、更にその下の世代がいたとしても、その下の世代には法定相続人の地位は移りません。

養子がいる場合

養子がいる場合、養子は「子」として取り扱われるため法定相続人に該当します。上記の「基礎控除額」の項目で、法定相続人の数が多いほど、相続税の非課税枠である基礎控除額が増えるというお話をしました。具体的には「600万円 × 法定相続人の数」という算式でしたね。

養子も法定相続人となるため、極端な例を挙げると、100人養子縁組をすると、基礎控除額は「3,000万円+600万円 × 100人 = 6億3,000万円」となります。相続税の節税目的での養子縁組を防止するために、基礎控除額の計算上、法定相続人の数に含める養子の人数を制限しています。

① 被相続人に実子がいる場合
  … 法定相続人の数に含める養子の数は1人まで

② 被相続人に実子がいない場合
  … 法定相続人の数に含める養子の数は2人まで

ただし、実の親と血縁関係が断絶する「特別養子縁組」などの場合には、養子であっても実子として扱われます。したがって、上記の人数制限の対象にはなりません。
また、養子縁組をしたのが明らかに節税目的であると税務署に認定された場合は、養子がいても法定相続人の数に含めることができなくなりますので注意しましょう。

今日は、相続税の基礎控除と法定相続人について見てきました。「財産の合計額」と「基礎控除額」が計算できれば、相続税がかかるか否かのおおよその判断ができると思います。
ただし、被相続人の財産の中には、土地や有価証券など相続税の計算上、価額がいくらになるのか分かりづらいものもあります。また、相続税には納税者に有利な特例があり、特例を適用すれば相続税がかからないこともあります。これらについても今後ブログで説明したいと思っていますが、お急ぎの場合はお問合わせください。

それではまた次回よろしくお願いします。

(公開日:2020年10月15日)