この記事について
「個人事業を開業したときの税務署への提出書類 その1」から「その3」までをまとめ、加筆したものを2020年11月15日に掲載しています。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
個人事業を開業したときの税務署への届出書・申請書
今日は、個人事業を開業したときの「税務署への届出書・申請書の提出」の最終日となります。
今回は以下の4つを見ていきましょう。消費税に関することが多いですね。
・消費税課税事業者選択届出書
・消費税課税期間特例選択届出書
・消費税簡易課税制度選択届出書
・所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
それでは順に見ていきましょう。
消費税課税事業者選択届出書
消費税の「課税事業者」を選択するための届出書になります。「課税事業者」とは分かりやすく説明すると、預かった消費税を納付する事業者のことです。
新規開業した場合は、原則として、開業年とその翌年は「免税事業者」となります。免税事業者とは、預かった消費税を納付しなくてもいい事業者です。そのため、通常、「課税事業者」を選択することはありません。
ただし、開業初年度は業種によっては多額の内装工事費が発生したり、高額な設備を購入したりする場合があります。そのときに、売上で「預かった消費税」よりも内装工事費などで「支払った消費税」のほうが多いときは還付を受けることができますが、前提として、「課税事業者」でなければ還付を受けることができません。
つまり「免税事業者」の場合は、預かった消費税が多くても納付する必要はありませんが、支払った消費税のほう多くても還付を受けられないわけです 。状況によって「課税事業者」を選択しましょう。
注意点として、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった場合は、翌年(※)も課税事業者となります。そのため、翌年、預かった消費税のほうが大きい場合は、納付することになります。開業1年目だけでなく、2年目のことも考えて検討しましょう。
(※)状況により、翌々年も「課税事業者」となる場合があります。
上記の規定に関して、ここに記載した以外にも要件があることや、他の規定が絡み合っており、大変複雑になっています。また、他の消費税に関する取扱いも同様に複雑になっていますので、より良い選択をするために税務署や専門家に相談されることをおすすめします。
消費税課税期間特例選択届出書
原則として、消費税の計算期間は、個人の場合、暦年(1月1日から12月31日)となります。 例外として、この届出をすることによって、1か月ごと又は3か月ごとに計算期間を区切って申告・納付することもできます 。
一般的に納税は、資金繰りのために先に延ばしたほうがいいため、この届出書を提出することはありません。ただし、消費税が「還付」になる場合はこの届出書を提出するメリットがあります 。すなわち、原則の1年ごとの申告よりも、1か月ごと、3か月ごとに申告したほうが「早期」に還付を受けられるわけです。
注意点として、この特例を受けた場合には、2年間は短縮した計算期間毎に申告をする必要があります。
状況に応じて提出しましょう。
消費税簡易課税制度選択届出書
消費税の簡易課税制度を選択するための届出書になります。消費税の計算方法として「本則課税」と「簡易課税」というものがあります。
1、 本則課税とは、「預かった消費税」から「支払った消費税」を控除し、残額を納付する方法です。
2、 簡易課税とは、「預かった消費税」から「預かった消費税 × 割合」を控除し、残額を納付する方法です。したがって「支払った消費税」は計算に影響しません。この「割合」は業種ごとに税法で定められていて、例えば小売業だと80%です。
簡易課税の計算例を見てみましょう。
(計算例)
預かった消費税 300万円
300万円-300万円×80%=60万円 ← 納税額
本則課税または簡易課税のどちらの納税額が少なくなるかは、事業の状況によって異なります。届出書を提出しなければ「本則課税」となります。「簡易課税」を選択する場合は届出書を提出します。
注意点として、簡易課税を選択した場合は、原則として、2年間は簡易課税で計算することになります。
本則課税、簡易課税の選択については、実務上判断が難しいポイントのひとつです。よく検討し、選択しましょう。
所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
納税地は、原則として、事業主の自宅の住所になります。ただし、店舗や事務所を納税地とすることもできます 。その場合はこの届出書を税務署に提出します。
確定申告をする際、確定申告書の提出先は納税地の所轄税務署となります。例えば自宅が板橋区にあり、自宅が納税地となっている場合は、板橋税務署に確定申告書を提出します。いっぽう、店舗が北区にあり納税地を店舗に変更した場合は、王子税務署に確定申告書を提出します。
また、税務署からの書類は納税地に送付されます。従って、店舗や事務所を納税地とすれば、そこに税務署からの書類が送られてきます。
プライベートと事業を分けたい場合は、納税地の変更をするのがいいでしょう。
3日間にわたり「個人事業を開業したときの税務署への届出書・申請書」を見てきました。最終日の本日は、主に消費税の届出書について説明しました。消費税は届出書の提出の有無などで納税額が大きく変わる場合があります。分からないことがあれば専門家に相談し、必要に応じて期限までに届出書を提出するようにしましょう。
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年10月7日)