この記事について
「個人事業を開業したときの税務署への提出書類 その1」から「その3」までをまとめ、加筆したものを2020年11月15日に掲載しました。次のリンクから最新の記事をご覧ください。
個人事業を開業したときの税務署への届出書・申請書
これから新しく個人事業にチャレンジしようしている方は、期待に胸を膨らませて開業の準備を進めていることでしょう。ただし、いざ準備を始めてみると予想していた以上にやることが多いですよね。
例えば、事業計画の作成、事業用口座の開設、開業資金・運転資金の借入れ、ホームページの作成、事務用品の購入など、また、店舗や事務所を借りる場合は物件の選定、下見、契約、内装工事も必要です。
ただし、忙しい中でも忘れてはいけないのが「税務署への届出書・申請書の提出」です。特に、個人事業者にとって有利な制度を選択する場合の届出、申請を失念してしまうと、確定申告の納税額が増えてしまうことがあります。気を付けましょう。
個人事業を開業したときに税務署へ提出する書類は主に下記のものがあります。
① 個人事業の開業・廃業等届出書
② 所得税の青色申告承認申請書
③ 青色事業専従者給与に関する届出書
④ 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
⑤ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
⑥ 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
⑦ 消費税課税事業者選択届出書
⑧ 消費税課税期間特例選択届出書
⑨ 消費税簡易課税制度選択届出書
⑩ 所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
たくさんありますね…。ただし、これらの書類をすべて提出するわけではなく、状況によって必要なものだけを提出します。先ほど申し上げたように、提出が義務付けられていなくても、提出をしたほうが納税額が少なくなるものがありますので、忘れずに期限内に提出するようにしましょう。
今回はこのうち、以下の3つの書類についてご説明します。
それぞれ提出期限があるので注意しましょう。
・個人事業の開業等届出書
・所得税の青色申告承認申請書
・青色事業専従者給与に関する届出書
個人事業の開業等届出書
個人事業を開始した場合は、「個人事業の開業等届出書」の提出が必要です。税務署へ個人事業を開始したことを通知するためのものになります。
また、下記のような場合に開業届のコピーが必要になることがありますので、控えも用意しておきましょう。
・銀行借入れ
・屋号付きの銀行口座の開設
・子供が保育園に通っている場合に市区町村に提出(サラリーマンを辞めて個人事業を始めた場合など)
(控えについて)
開業届については、国税庁のHPから取得できる用紙で作成し、税務署に提出する方法と、e-taxを利用してインターネットで提出する方法があります。
・用紙で提出する場合には、「提出用」と「控用」を作成し、控用には税務署の受領印を押してもらい手元に保管しましょう。
・インターネットで提出した場合には、提出後に印刷しましょう。
所得税の青色申告承認申請書
青色申告の承認を受ける場合に提出をします。青色申告の承認を受けると税務上の各種特典があるため、通常は、提出することをおすすめします。
青色申告の代表的な特典は下記のとおりです。
・青色申告特別控除
・青色事業専従者控除
・少額減価償却資産の特例
・純損失の繰越控除
順に見ていきましょう。
青色申告の特典 その1 「青色申告特別控除」
下記のいずれかの所得控除が受けられます。
・10万円の所得控除
・一定の要件(※)を満たした場合は、55万円の所得控除
・一定の要件を満たし、かつ、e-Taxよる電子申告又は電子帳簿保存を行っている場合には、65万円の所得控除
(※)一定の要件とは
複式簿記による記帳
貸借対照表および損益計算書の確定申告書への添付、など
青色申告の特典 その2 「青色事業専従者控除」
これについては、この後の「 青色事業専従者控除に関する届出書」で詳しく説明します。
青色申告の特典 その3 「少額減価償却資産の特例」
10万円以上の資産(パソコン、プリンター、エアコンなどの器具備品、機械など)を購入した場合は、原則として、購入した年に全額を経費計上することはできません。資産計上をしたうえで減価償却(※)を行うことになります。
ただし、青色申告承認申請書を提出している場合には、30万円未満の資産については、購入した年に全額を経費計上することができます。この特例を受けるためには、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に一定の事項を記載して確定申告書に添付するなどの要件や、1年あたりの限度額などがありますのでご注意ください。
※ 減価償却とは
例えば、1月に20万円のパソコンを買った場合には、4年に渡って毎年5万円ずつ経費に計上していきます。このようにその資産の耐用年数(国が定めたその資産を使用できる年数)によって、毎年、経費計上することを減価償却といいます。
青色申告の特典 その4 「純損失の繰越控除」
個人事業を始めた場合、初年度は開業にお金がかかることもあり、赤字になることも多いです。その場合、青色申告承認申請書を提出していると、その赤字の金額のうち他の所得と損益通算しても控除しきれない部分の金額は、翌年分の黒字から控除できます。結果、翌年分の納税額を減少させることができます。
さらにこの赤字は、赤字が発生した年の翌年以後3年間に渡って繰り越すことができます。分かりやすく説明すると、所得が事業所得のみの場合で、初年度に100万円の赤字が生じたと仮定しましょう。
翌年が30万円の黒字の場合、初年度に生じた赤字100万円のうち、70万円(赤字 100万円-黒字30万円)が控除しきれないことになりますね。そのため、この70万円は翌々年に繰越せます。
翌々年でも黒字から控除しきれないときは、翌々々年まで繰り越すことができます。
青色事業専従者給与に関する届出書
例えば配偶者に事業を手伝ってもらう場合も多いと思います。その場合に配偶者に給与を支払うことも多いと思いますが、もし給与を支払っても、原則としてその給与を必要経費として計上することができません。結果、納税額がその分増えてしまう(その分の納税額が減らない)ことになります。
このように現在の税法では、生計を一にする、配偶者やその他の一定の親族に給与を支払っても、原則として、必要経費に計上できないことになっています。
ただし、「所得税の青色申告承認申請書」を提出したうえで、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出し、かつ、一定の要件を満たすと、その給与を必要経費に計上することができます。これらの要件を満たした配偶者や親族のことを「青色事業専従者」と呼んでいます。
青色事業専従者として給与の支払いを受ける人は「控除対象配偶者」や「扶養親族」になることができませんので注意しましょう。
明日は以下の3つの届出書、申請書を見ていきたいと思います。
・給与支払事務所等の開設等届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
・所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
それではまた次回よろしくお願いします。
(公開日:2020年10月5日)